13.深夜番組 ※注:途中、いわゆるホラー画像が出てきます。直前に画像スキップ用のリンクを貼っているので、画像を見たくない方はご利用下さい。自己判断・自己責任でお願い致します。 上限の月はとうに空から姿を消し、時刻は日付を過ぎてかなり経つ。 宿の受付も常駐の職員はおらず、小さな呼び鈴を鳴らして出て来た仲居にペコペコ頭を下げながら鍵を受け取った。 賭場でそこそこイイ思いはしたものの、そこで朝を迎えるつもりは悟浄にはない。 それはうっかりすれば旅の仲間に本気で置き捨てて行かれるという理由もなくはないが、第一には、旅の男と酒場女の甘い一夜に朝の明るい光は無粋だと考えるからだ。 白熱球の赤みがかった光が似合う夜の男と女も、朝日の下に晒されると色気は半減だ。 せっかくの甘い思い出を、思い出として綺麗なまま残しておいてやりたいという、悟浄なりのスタンスだった。 『そういえばゲレンデや海辺で出会った異性って妙に美男美女に見えるんだけど、後で会うとあれ?って思うくらいイケてないってよく言いますよねー』 『要するに、見てくれが良く感じられるのは舞台効果であって、本人の素質じゃねぇからな』 と約2名から辛辣な意見を寄越されそうだが、それはそれ、これはこれだ。 時間が時間なので、足音を立てないよう最大限努力しながら、割り当てられた部屋のドアを探す。 今日は猿と俺が同室だった。 ――と、 「ん・・・?」 目当ての部屋のドアから、僅かだが声が聞こえる。 この部屋に辿り着くまでにも、ちょっとばかり大きめのいびきが聞こえた部屋もあるから、きっと猿が『腹いっぱいでもう喰えねぇ』とか寝言を言ってるんだろう、そう考え、苦笑しつつ鍵を開けてドアを開けると、 ※この先ホラー画像があります。回避希望の方はこちらへ。 |
「・・・で、宿の廊下でその大きな図体を伸ばしたまま、朝まで気絶していたんですか」 腕を組んでこちらを真っ直ぐ見つめるその顔には、『馬鹿じゃないですか貴方』と大書されている。 その向こうでは、我らが旅のリーダーが、小猿をハリセンで床に沈める光景が見えた。 深夜、TVを見ていた猿が、睡魔に負け、テレビを付けたまま眠ってしまったらしい。 部屋の電気が消えていたのは、安眠のために最後の無意識下で手が動いたのだろう。 部屋が暗くなり、悟空が眠りに付いた後も、テレビはそのまま深夜番組を流し続け、俺が戻った時には『世にもホラーな物語』が流れていたようで、 ドアを開けた瞬間、そのクライマックスの場面を目にした俺は、無様にもその場で意識を手放したのだった。 「ホント、恥ずかしいったらありませんよ。同室の悟空も起きないもんですから、僕達の部屋に宿の人が来るし、他の部屋の客も野次馬で集まって来るし・・・いっそ完全に他人の振りしてしまおうかと思ったくらいです」 「面目ありませんデス・・・」 「三蔵は三蔵で、寝起きの低血圧なところへあんなことになったもんですから、怒りにまかせて悟空をハリセン連打で起こそうとして、虐待疑惑まで浮上するし・・・穴があったら入りたいってのを、身を以って経験しましたよ」 「も、申し訳ない・・・」 ということは、小猿はハリセンで起こされた後、状況を説明されて、改めてハリセンで沈められたわけか。哀れだ。 だが、猿を哀れんでいる場合じゃない。 そもそもは俺が夜遊びしていたのが原因だと、目の前の人物からなじられるのが目に見える。 「それもこれも悟浄、貴方がホラー如きで気絶するようなヤワな神経しているのが原因です」 「・・・へ?」 夜遊び禁止令が出るのを覚悟していた俺は、思ってもいなかった言葉に首を傾げた。 ナンか、話が変な方向へ進んでいる気がする。 「今日から特訓です!これを毎晩見て恐怖心を克服するんです!」 と、何処からともなく(それこそ、三蔵サマのハリセンもかくやだ)取り出したのは、 『世にもホラーな物語 ビデオ版』 「最近のビデオレンタルシステムって凄いですねぇ。インターネットで申し込めば指定の住所に届いて、返却は郵便ポストに投函でOKなんですから♪」 素晴らしいですTMMドットコム。 そんな笑顔の友人を前に、色々ツッコミを入れたいけど、それが聞き入れられる状況ではない。 「明るい時間に見ても意味ありませんから、深夜限定、一晩1本のノルマです。 このシリーズ、30本以上出てますから、見ごたえありそうですね♪」 ・・・勘弁してクダサイ。 恐怖心を克服する前に、魂が恐怖のない世界に逝ってしまう。 朝の爽やかな光の中、ホラーより恐ろしい存在を前に、どうやって許してもらおうかと冷や汗をかきまくる俺だった。 |
あとがき 冒頭の注意書きはお読みいただけてますよね? 間違って映像を見てしまって悟浄と同じ運命を辿る人がいないことを祈ります。 登場する番組名・団体名は実在するものとは一切関係ありません。ご了承下さいませ(笑)。 |
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