31.ベンティングマシーン
それは、いつものように三蔵サマからの依頼をこなして成果を報告した帰りのこと。
商店街を突っ切るついでに夕飯の材料その他諸々の買い物を済ませ、
町のど真ん中ではジープを変身させられないので、通りの外れ目指して歩いていると、流石に喉が渇いたので、周囲を見渡す。
「んー・・・・・・っと、あったあった」
目当てのものに近付き、小銭入れを取り出した時、
「悟浄・・・何やってるんですか?」
怪訝そうな顔付きの同居人に、それこそこっちの方が怪訝な顔付きになる。
「何って、自販機目の前に小銭入れ出すっつったら、飲みモン買う以外ねーだろ?
三蔵サマときたら、ヒトをこき使うだけこき使って、茶の一つもださねぇもんよ、流石に喉が乾いちまったぜ」
そう言った俺に向けられたのは、信じられない、といった眼差し。
ちょっと待て、俺、何か拙いこと言ったか?
寺院で茶が出なかったのをぼやいた程度で、普段はもっとあからさまな悪口だって言ってるし、そんな俺に対し苦笑だけ返すものの――賢いやり方だ――、こいつだって同意している節があるのは確かだ。
訳が分からねぇ、と疑問符を浮かべる俺に、同居人は唇をわなわなと震わせて、
「すぐそこの食料品店で98円で買える飲み物を、130円も出して買うってどういう神経してるんですか貴方は!?」
・・・・・・・・・は?
「しかもそれを当然のように捉えているということは、年中自販機で飲み物を買ってるってことですよね!?」
まぁ、ビールと違って箱買いしねぇ飲み物は、大概そうするわな。
「1本につき約30円の差額として1日1本買ったとしたら1年間で30×365=10,950円・・・」
いつの間にか握りしめられた拳がふるふると震えている。
「この僕が上手くやりくりしていたつもりが、甘かったです。
これから煙草は1日30本、2日で3箱です!いいですね!?」
「んな!?」
これまでの俺の喫煙ペースは1日2箱だ。
1日10本も減らせってか?
「本当なら煙草なんて無駄なものは完全に排除したいところですが、馬鹿が治らないのと同じようにニコチン依存は手強いですからね、最大限の譲歩です」
何か、ものっ凄く酷い事を言われているような気がするんだけど?
ってか、自販機使うだけでナンでこんなコトになるの?
とはいえ、財布の紐を握る相手に逆らえる筈もなく、当分節煙生活せざるを得ない事実に滂沱の涙を流す悟浄だった。
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あとがき
スーパーで98円、ディスカウントストアなら68円とかでも買えちゃう飲み物が130円で売られている自販機。香月は10年近く利用していません(苦笑)。
高校時代は(多分学生ターゲットで)アクエリアスやコーヒーの500mLロング缶が100円で買える自販機を主に利用していたっけ。
まあ、人やお店の少ない場所でも利用可能ですし、何より日本の技術力と治安の良さの象徴でもあるので、その存在に否を唱える気はありませんが。 |
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