48.熱帯魚
「うっわー、すんげぇ綺麗なサカナっ」
宿のロビーに置かれた大きな水槽を覗き込んだ悟空が、黄金の眼を見開いて叫んだ。
赤、青、黄。
鮮やかな原色をまとった熱帯魚が優雅に泳ぐ。
「喰うんじゃねーぞ」
「喰わねーよっ!」
宿の主人が聞いたら青褪めそうな会話が繰り広げられる。
幸い、その当人は予約なしの団体泊り客(僕達のことです。すみません)の受付のために、こちらの会話など聞いてる余裕もなさそうだ。
「そういえば、昔聞いた話なんですけどね・・・」
前触れもなく話し始めた僕に2対の瞳と1人分の気配が向けられる。
熱帯魚にまつわる哀しい話。
この場で話すのが相応しいのかどうかなんて判らない。
気が付けば、口を突いて出ていた。
「熱帯魚を飼っている人がいましてね、この水槽ほど立派じゃないけれど、それなりのものを調えて、大事に大事にしていたんですよ。
ですがある日、その人はうっかり水槽の蓋を閉め忘れたまま3日間家を留守にしたんです。
暑い夏の日でした。
空調の切られた家の中、日中は30℃を優に越える気温・・・当然、水槽の水はどんどん蒸発していきます・・・そしてついに、サーモスタットの先端が水面から出てしまったんですよ」
「出てしまうと・・・どうなるの?」
「設定されている水温は28度。ですが気温は幾ら暑くてもそこまでいきません。
結果、サーモスタットは水温が設定より低いと感知し、水温を上げようとヒーターを作動させます。
どんなに水温が上がっても、サーモスタットが水面から出ている以上、設定温度に到達する筈もなく、ヒーターは稼動し続ける・・・」
ごくり
その先を読み取った悟浄が、生唾を飲み込む。
「出先から戻った飼い主が見たもの・・・それは水槽の中でグラグラ沸騰する湯と、煮魚になった大切な熱帯魚達の悲惨な姿だったそうです――」
「「〜〜〜〜〜っ!!」」
「熱帯魚を飼っている皆さん、くれぐれも水槽の蓋には注意しましょうね・・・」
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あとがき
上記の話は実話です(怖)。
『幾ら暑くても28℃にはならない』と書きながら、某所で40℃越えのニュースを聞くとシャレになりません。まあ『継続して28℃にはならない』という事で。
一応羅昂も一緒にいます。 |
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