62.オレンジ色の猫
東の空が白む頃、悟浄は鼻歌交じりで本来の宿へと向かっていた。
一晩イイ思いをしてぐっすり眠ったので、その足取りは軽い。
あと1区画分先の交差点を左に曲がって3軒目が、他の連中が宿泊中の宿――という所まで来た時、
ウニャーッ ニャーッニャーッ フギャーッ
自分の頭より高い位置――恐らく屋根の上だろう――から、猫のいきり立つ鳴き声が聞こえてきた。
おいおい今夜は猫もお盛んなんスかよ。
煩いなという感想は横に置いて、ま頑張れやと心の中でエールを送りたくなるのは、攻撃を受けている側が自分と同じ雄だからかも知れない。
そんな事を考えながら歩いていると、
「兄ちゃんっ、そこどいて!!」
「!?」
急に掛けられた声に、反射的に身を捩じらせる。
日頃の鍛錬の賜物だろう。
・・・この場合、『鍛錬』という言葉が妖怪との戦いを指すのか三蔵の銃弾を避ける事を指すのかは微妙だが。
そして、今しがたまで自分が立っていた場所に落ち・・・もとい、降り立ったのは、
「ナイス兄ちゃん!サンキュな!!」
「へ・・・!?」
屋根からのダイブもなんのその、上手く勢いを殺して着地したオレンジ色の猫が、悟浄の方を振り仰いで叫んだ――気がした。
悟浄が慌てて後ろを振り向いたが、既にその猫は裏路地へと姿を消していた。
「・・・・・・・・・空耳?」
にしてはかなり鮮明に聞こえたが。
思ったほど睡眠が取れていなかったのだろうか。
「・・・早いとこ戻ってもっかい寝よ・・・」
あーもうっ、一体何なんだよ!?
確かオレ、桜の木の下を歩いていた筈なのに、穴みたいなのに落っこちたと思ったらいつの間にか屋根の上にいるし、他所猫って言われて喧嘩売られるし、ワケ解んねぇっ。
「――そこな猫、お前、この世界の住人ではないな?」
「・・・なーう(誰、あんた?)」
「ここは、お前の住む世界とは次元を異にする世界。何かの加減で出来た空間の歪みが隧道を作り、そこを通って来てしまったのだろう」
「・・・ぅなー(ジゲン・・・??)」
「帰るがいい・・・お前の、在るべき世界へ」
「・・・・・・」
そう言って、目の前の変わった着物を着たヒトは、オレの頭をひと撫でした。
辺りは夜だったのに、急に俺の周りだけ明るくなったような気がしたけど、覚えているのはそこまでだった――
「――・・・ん・・・みかん・・・みかん!」
「・・・ぅにー?」
「『ぅにー』じゃないよ。4月になったっていったって、まだ夜は寒いんだよ?こんな所で寝てたら風邪ひくって!」
「あー・・・吐夢・・・」
「まーだ寝惚けてんの?ほら、帰るよ!」
「わ、待ってくれよ吐夢!」
慌てて吐夢の後を追った。
いつもの公園。
いつもの道。
じゃあ、さっきの見知らぬ町やヒトは一体――?
それは、唯一人だけが全てを知る、小さな出来事――
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あとがき
『オレンジ色の猫』=某バイリンキャット。
判る方にしか判らない結びつきですみません。
っていいますか、後半完全に最遊記から逸れてしまいましたが。
詳しい記述は省いていますが、日本と桃源郷で、時間帯を違えております。
それと、羅昂が夜明け前に外にいる理由は、本編を書き進めないと出てきません。ゴメンナサイ。 |
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