64.洗濯物日和
気温は低くなってきているものの、頭上に雲は殆どなく、日差しの暖かさを肌に感じる。
目の前に川はあるが、気温のためか、頬を撫でる風は乾いていて、
「いい天気ですよねぇ・・・お洗濯にはもってこいの」
誰にともなく呟く八戒の手には、上品な白磁のティーカップ。
旅の荷物のどこにそんなモノがあったのかは、聞いてはならない。
それを理解している三蔵は、我関せずとばかりに明後日の方角を向いて新聞を読む、振りをする。
そして、
ジャブジャブジャブジャブ・・・
「・・・腹減った・・・」
「我慢しろサル、取り敢えず最優先はこっちだ。メシの支度はこの後」
「何で俺達が・・・」
「言うんじゃねぇ。どんなに理不尽だろうが不条理だろうが、真っ当に生きていきたきゃ、その先は口にするな」
「・・・・・・」
ジャブジャブジャブジャブ・・・
川の清水で洗われ、木と木の間に張ったロープに掛けられた洗濯物の数々。
小一時間程前に同様に掛けられたそれらが、空気を読めない刺客達が投げた爆弾の爆風により無残な状態になったのは、決して悟浄や悟空の所為ではない。
が、元凶である刺客達は、土埃まみれになった洗濯物を目にした八戒の気功により瞬殺されてしまったので、洗い直しを言いつけることも出来ない。
『僕としたことが、うっかりしていました・・・足だけ砕いて洗濯をやり直させてから昇天させるべきでしたのに・・・あんなに楽に死なせるなんて・・・嗚呼』
後悔にくれる八戒はそれはそれで珍しいが、言ってる内容は誰が聞いても違うだろ、と言いたくなるもので、
しかも、その洗濯のやり直しが悟浄と悟空に押し付けられたのだから、たまったものではない。
『今日は僕一人しか働いていないんですよ?洗濯も、戦闘も』
極上の笑みを浮かべるが、ものの数秒で骨も残さず相手を蒸発させてもまだ怒り冷めやらぬといわんばかりの眼に、そもそも他の面子が戦闘参加する前にMax威力の気功で一切合切消し去ったんだろーが、と突っ込める者はいなかった。
――結果、
ジャブジャブジャブジャブ・・・
「川の水が冷てぇ・・・」
「我慢しろサル、真冬じゃないだけ有り難いと思え」
「・・・・・・」
2人の手で洗われた洗濯物は、本来の布地の色を見せ、秋風にはためく。
これから更に気温が上がるだろうから、この季節でも問題なく乾くだろう。
「本っ当に、最高の洗濯物日和ですよねぇ」
呟く八戒に、自分達のヒエラルキーは洗濯物以下だと思い知らされた悟浄だった。
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あとがき
時間的には午前11時頃、丁度水量の多い川に到達したので洗濯と昼食目的でキャンプを張り、洗濯を終えたところで襲撃を受けたことになります。
折角洗った洗濯物をすぐ汚すと怒る、完全主夫体質の八戒(笑)。
三蔵様がヒエラルキー上位かというと・・・時と場合によって変動するようです、当館の場合(^_^;)。 |
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