74.合法ドラッグ
三蔵の目の前に、見るからに人相の悪そうな男が数名転がされた。
全員、手足を縛られた上、気絶させられている。
・・・その手や足が一部有り得ない方向にひん曲がっている点は、気にしてはいけない。
「取り敢えず、主犯格と思われるメンバーをしょっ引いて来ました。
残りの格下さん達は、『工場』近くの倉庫に動きを封じて閉じ込めています」
「『工場』は指示通りガソリンぶち撒けて火ぃ点けてきたぜ」
「『原料』の植物はあるな?」
「あぁ、こいつだ。言われた通り一鉢だけ。
『工場』には園芸農家かよってくらい栽培されてたけど?」
「一鉢で充分。こいつは三仏神への報告用だ。後は葉の一枚も残しちゃならん」
「そりゃ何でまた」
「貴様が知る必要などない」
「おまっ・・・!こんだけ労働させといて、その言い方はねーだろっ?」
「フン」
「まあまあ、三蔵、何なら僕の口から推察出来た範囲で悟浄に喋ってもいいんですけど?」
「・・・・・・」
三蔵は一瞬八戒の方を睨むが、すぐに視線を漂わせて逡巡した後、チッと舌打った。
「・・・寺では古来より、その植物から取れる成分を香炉で焚き、立ち昇る薫煙を吸引する習慣があった。
曰く、仏陀が悟りを開いた状況をそれにより作り出せるそうだ」
「要はエクスタシー、つまり恍惚状態を人為的に作り出し、そこから別次元の境地に自分の意識を高める、というわけですね」
「それって結局ラリってるってことじゃね?」
「そうとも言う。まあ宗教的恍惚なんざ、クスリでラリるのとそう変わらんってことだな」
「うわー、最高僧サマが言い切っちゃったぜ」
「あはははは、流石は三蔵ですね。
――つまり、この植物は寺でのみ使用され、一般には流通しない――ということは、この一鉢を含め、あの工場で栽培されていた植物の最初の出所は・・・」
「・・・慶雲院じゃねぇぞ」
「どっちにしろ、寺関係なんじゃねーか。
てーことはナニ、俺達ゃお宅の身内の不祥事隠蔽と今後もこいつを使いたいっつー願望のために重労働させられたってワケ?」
タバコの端を噛みながら舌打ちしている時点で、肯定しているようなものだ。
摘発・起訴に最低限必要な証拠のみを持ち出させ、後は何も残らないよう火を点けさせる。
警邏の者にも、真実を明かすことは出来ないからだ。
そして、その存在すら市井には極秘とされてきた、精神系薬物。
今後も寺の中で使用するためには、違法薬物に指定されるのは是が非でも回避したい、そう考える僧侶は、少なくとも三仏神が動かさざるを得ないくらいの数はいるということだろう。
「宗教団体ってのはしがらみも厄介事も多いんだよ」
「・・・煙草を吸いながら宗教的恍惚を鼻で笑う最高僧ってのは、厄介のうちには入らないんでしょうかねぇ」
のほほんと言う八戒に、三蔵は嫌そうに顔を歪めた。
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