80.ベルリンの壁
「悟浄、ちょっと質問するので答えて下さい。
『貴方の前に壁があります。壁の高さはどのくらいありますか?仮想世界なので、普通では在り得ない高さ・低さでも構いません』」
放課後、コンピューター部の部室で電子部品のハンダ付けを行っていると(俺はハード担当だ)、不意に八戒が切り出した。
きりの良いところで手を止めると、顔を上げて言った。
「あ゛?何よ、それ?」
「細かい事は考えずに、直感で言って下さい。目の前にある壁の高さはどのくらいありますか?」
「はぁ、ンな事急に言われてもよ・・・」
「もう、こういうのはテンポが大事なのに・・・じゃあ三蔵先輩、貴方だったらどう思いますか?目の前に壁があるとしたら、その高さはどのくらいです?」
求める返答の来ない俺に追求するのは諦めたのか、八戒は矛先を三蔵センパイに向けた。
先輩はプログラムソフトの入力中だったが、少しはこちらの話を聞いていたのだろう(他人への感心が薄い割には耳年増なところがある)、怪訝そうな顔をしながらも、
「現実に無くていいってんなら、上の縁が見えないくらい」
それだけ言うと、再びディスプレイに視線を戻した。
「はぁ成る程、そんな感じね。じゃあ俺は逆に、跨いで超えられるくらい、かな?」
現実に無くていいってんで、何となく遊び心でそう言ってみる。
つーか、何なのよ、マジで。
「先輩はどうですか?」
このクラブの紅一点、俺達より一学年上――つまり三蔵先輩と同学年――の先輩に、八戒が話を振る。
「私は、ジャンプしてギリギリ上の縁に手が届くくらい・・・2mちょっと、かな?」
「ちょっとってのは何なんだ。中途半端じゃねぇか」
「2mぴったりだとジャンプしなくても届くもん。だから+20cmぐらい」
「細けぇ・・・」
「何か問題でも?」
「知るか」
あー、始まったよ。この2人、仲がいいんだか悪いんだか。
「まあまあまあ、そこはその人のこだわりみたいなものですから、中途半端でも問題ありませんよ」
「んじゃさ、お前さんはどーなのよ」
「心理テストの答知ってる人に質問しても意味無いんじゃないの?」
「あ、心理テストなの?」
「・・・悟浄、判らなかったの?」
「馬鹿だからな」
毎度毎度、ムカつく事しか言わねぇ先輩だよ。
「まあまあ悟浄。
確かに先輩の言う通りですけどね、でも敢えて言うなら、『ベルリンの壁』ぐらいでしょうか」
「「「・・・・・・・・・」」」
お前さん、年齢詐称してねぇか?
「ベルリンの壁って、確か4mくらい?」
「一律の高さじゃねぇが、3.6から4mくらいの筈だ」
「で、結局ナンなのよ?」
「えぇ。この『壁の高さ』というのはですね、
『その人のプライドの高さ』を表わすそうなんですよ」
・・・・・・・・・
「ちょっと待て、じゃあさっき俺が言ったの・・・」
「『跨いで超えられるくらい』だった?」
「やっぱ馬鹿は馬鹿なりのプライドしかないってわけか。『跨いで超えられるくらい』とはな」
「三蔵先輩のも大概ですけど、ま、『跨いで超えられるくらい』よりは・・・ねぇ」
「お前、俺を吊るし上げにするためにンな事したのか?」
「おや心外な。僕の質問に対して『跨いで超えられるくらい』と答えたのは、貴方の自由意志ですよ?」
「畜生〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
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あとがき
結構知られているだろう心理テスト。香月は実際に高校の時にこれを試されました。
香月の答を反映させるためだけに、ドリームにしてみましたが、余り意味はないかも。
といいますか、お題の入れ方がかなり強引ですね。反省反省。
・・・ってここに来られる方達ってベルリンの壁崩壊リアルタイムで見てない・・・?
(香月もあの時は小学生だったと・・・あら?) |
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