81.ハイヒール
よーするに、それは『綺羅の空間』だった。
部屋の半分は床より数cm高いステージ風になっており、その周囲は大型のクローゼットに囲まれている。
クローゼットの戸は全面に鏡が張られ、ステージに立つ人物の姿を余すことなく映している。
そして今、ステージの中央には一人の女性が、眩いばかりに白いドレスに身を包んで立っていた。
「・・・おかしくはありませんか、玄奘様・・・?」
藍い瞳を恥らうように伏せ、頬を染めるのは、三蔵財閥総帥三蔵 玄奘の婚約者である朧 計都。
この初夏に挙げる式で着るウエディングドレスの試着中だ。
「よく似合っている・・・さっきの物より、こっちの方がいいんじゃねぇか?」
「そうですね。初夏にお式を挙げられるのでしたら、スカート部分はオーガンジーを重ねて軽さを出した物の方が見た目にも涼しげですし、デコルテのデザインも先程の物よりこちらの方が丁度良いボリュームのようですね。
・・・・・・では、ドレスはこの型番で宜しいですか?」
「ああ、頼む」
「お願い致します」
「かしこまりました。手配を致します。
では次に、お靴の方に移らせていただきます。夏なら、ミュールタイプの物を選ぶことも出来ますが・・・」
「いや、計都・・・妻はこの通りの眼なので、ミュールはやめた方が良いだろう」
「その通りでございますね。では、通常のパンプスかサンダルの中からお選びいただきましょう。
ヒールの高さのご希望はございますか? 当方では、ドレスのラインが美しく見えるよう7・8cm以上の物をお奨めしておりますが・・・」
「8cm・・・」
それまでドレス姿の婚約者を常に視界に入れながら、それでもてきぱきと意見・要望を店員に出していた三蔵の眼が、逡巡するように宙を泳いだ。
自分:身長(約)176.5cm。
計都:身長169cm。
169cm+8cm=177cm>176.5cm
!!!?
「――い、いや、こちらも足元を確認する事が難しい状態では、高いヒールの靴は危険だ。普段の靴と同程度のヒールが良いだろう」
「そうですね。では後程奥様のヒールの確認をさせていただきましょう。
本当に、奥様の事を気遣って下さるお優しい旦那様ですね」
「まあ・・・恐れ入ります・・・」
頬を染める婚約者に、自分のプライドを優先させたなどとは、口が裂けても言うまいと誓う三蔵であった――
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あとがき
現代パラレルの結婚準備裏事情(笑)。一行目の文は、某カーラ様の代表作から。
本編で、初春に再開した2人は、1年余の準備期間を経て6/1にブライダルフェアの宣伝目的も兼ねてアイビーホテル トウキョウで式を挙げます。
これなら三蔵も生涯結婚記念日を忘れないでしょうし(笑)。
ちなみに。
香月、従姉の結婚式の後本物のブーケ(トス用とは別の、ちゃんと式で持っていた物)を貰ったのですが、
車で半日かけて帰らないといけないのでホテルで捨てちゃいました(爆)。
夢もへったくれもない20+α歳です。 |
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