85.コンビニおにぎり
「お疲れ様です。これ、宜しかったらどうぞ」
言いながら計都は、八百鼡と運んだコンビニの袋をテーブルの上に置いた。
「お、さーんきゅ♪」
「すみませんねぇ」
「んめー♪」
「って猿!手も拭かずに食ってんじゃねぇよっ!てか礼ぐらい言え!」
青筋を立てて怒鳴る三蔵の前に、そっと近付く計都。
すぐに気付いた三蔵は、青筋を消して婚約者の方を向く。
彼女の手には、先のコンビニ袋とは別の包み。
「玄奘様・・・あの・・・」
「・・・どうした」
「貴方様には、こちらを・・・」
そう言って差し出された包みの中身は、コンビニおにぎりとは明らかに違う手作りのもの。
「中身、はみ出しているかもしれませんけど・・・」
そう言うと、頬を赤らめて俯いてしまう。
コンビニおにぎりは海苔が湿気らないのが身上。
しかし、包装を剥がす際に海苔が破れてしまうことが多く、短気な三蔵はそれ故コンビニおにぎりは好きではなかった。
それを知ってか知らずか(知っているとすれば情報源は唯一人に絞られる)、ラップで包んだおにぎりに海苔は巻かれておらず、別の容器に入れられた海苔を食する直前に巻くよう用意されていた。
「いや、よく出来ている・・・」
お世辞でも何でもなく(そもそも三蔵の辞書に世辞という言葉は無い)、目の見えない者の手によるとは思えない程、それらはきちんと握られている。
感心しながらラップの巻き終わりを探していると、付箋らしき物が付けられている事に気付き、計都に尋ねた。
「この付箋は何だ?」
「あ、中身が判るように、八百鼡さんに頼んでつけてもらったんです」
「水色がツナマヨ、ピンクがタラマヨ、黄色が鶏唐マヨです♪」
「そうか」
――その時部屋の片隅では。
「お前か、お前が教えたのか?」
「何か問題でも?計都さんが『あの方のお好きな具があれば・・・』と言うのでアドバイスして差し上げただけですよ?」
「うわー、三蔵、眉間のシワが2本減ってる・・・」
日本屈指のホテルチェーン会長、三蔵 玄奘。
彼の好物は、『とらや』の羊羹と、婚約者の握るツナマヨむすび――らしい。
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あとがき
よく『おにぎり』と『おむすび』の違いが取り沙汰されますが、『おにぎり』がどんな形でも良いのに対し、『おむすび』は必ず三角に握られた物を指します。
山の神様にお供えとして蒸し米(強飯)を捧げる際に、山の形を作ったことから来るそうです。
それはさておき、香月はコンビニおにぎりの海苔、破ったことありません。
スーパーで売られているものは海苔がケチられているせいか、たまに破れますが。
ビニールを左右に外す時、小刻みに前後させながら引っ張るのがコツですね。
食べるのは専らかつおとツナマヨ。
安いですし。 |
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