夜も遅い時間になってから辿り着いた町で、今夜の宿はコテージ風の一軒家。 上げ膳据え膳のサービスはないけれど、代わりに食うなり寝るなり、その過ごし方は自由で邪魔が入ることはない。 取り敢えず今夜は買い物も出来ないので、手元に残っている食料とコテージに置かれている缶詰や調味料で、遅めの夕食にすることになった。 夏も間近なこの時期にサラダの代わりに温野菜ってのもナンだけど、生野菜が手元に無い以上、そこは仕方ねぇ。 そう思いながら箸を進めていると、やおら三蔵サマが懐を探り出した。 あ、やな予感。 おもむろに取り出したのは――myマヨ。 温野菜にマヨはまだいい、この味覚障害坊主ときたら、刺身や餃子のタレ、すき焼きの生卵にまでマヨを入れる筋金入りだ。 ――と思ったら、 ぽひゅ 何とも情けない音を立てて、小指の先程のマヨネーズが皿に落ちた。 「何、射ち止め?」 「悟浄、食事中」 俺達のやり取りに、チッと舌打ちする三蔵。 その様子に、八戒がふと箸を置いて立ち上がった。 「あれ、ここにマヨネーズってあったっけ?」 このコテージに入ってすぐさま酒とつまみに手を伸ばした俺は、食料倉庫の中身も一通りチェックしていたが、マヨネーズは無かったように思う。 「残念ながらマヨネーズはありませんでしたけど、卵はあるんですよね。それとお酢とサラダ油も」 はあ、それとマヨとどう関係あるの? 「わざわざ作るのか?」 へ、その3つがマヨの原料なの?知らなかった。 「ちょっとやってみたい事があるんですよ。あ、皆さん食べていて下さい」 「ん、判った」 「お、おう」 「あぁ・・・すまん」 八戒の言葉にそれぞれ返事し、言われた通り食い続けていた。 八戒が席を立ってから5分もした頃―― ドンッッ 「「「!?」」」 突如裏口辺りから聞こえてきた爆発音にも似た音に、俺達3人は反射的に立ち上がった。 「何、敵襲?」 「――殺気は感じられんが・・・」 「今の音、八戒がいる辺りじゃないの?」 悟空の言葉に、俺と三蔵は顔を見合わせ、八戒が向かった先と思われる勝手口へ駆けつけようとしたその時、 「どうしたんですか?皆立ち上がって・・・・・・あ、もしかしてさっきの音、聞こえちゃいました?」 何事もなかったかのように、爆発音が聞こえた方向から八戒が戻ってきた。 聞こえちゃいました、ってことは、今の音は・・・まさか? 「ええ、驚かせてすみません。どうしてもこれをやってみたくって」 と、俺達の目の前に差し出したのは―― 「・・・・・・マヨネーズ?」 小瓶に入った薄黄色のソレは、見た目は確かにマヨネーズだ。 どうぞ、と手渡された三蔵は蓋を取って匂いを嗅ぎ、更にブロッコリーに中身を付けて食べてみた。 「・・・・・・よく出来ている」 「それは良かった。足りなくなったらまた作りますので、どうぞ使って下さい」 そう言われて、三蔵は席につき、早速料理にマヨを付け始めた。 小猿は小猿で、敵襲じゃないと判った途端、関心は料理の方に戻っている。 テメェ等は今の爆発音とマヨネーズの因果関係が気にならねぇのかよ。 すっげぇ気になった俺は、食事に戻りながら、当の本人に聞いてみることにした。 「あのさ、アレとさっきの音と、どう関係あるの?」 「・・・以前ですね、TVで・・・」 長い話になったので要約すると、 数日前に泊まった宿で、某近未来予測番組を見た八戒は、その一つに関心を持った。 それは、爆発に伴う衝撃波を食材に当てることで、その食材は中身が非常に柔らかくなったり、撹拌したようになったりするという実験で、一瞬のうちにリンゴが手で絞れるくらい柔らかくなったり、山芋がとろろになったりするのだそうだ。 で、その実験の中に、マヨの原料を容器に入れてマヨネーズを作る、というのもあったそうで、 「一度やってみたかったんですよ。手間の掛かるマヨネーズが一瞬で出来るんですよ?」 まるで未来の調理器具を目にした主婦のように目を輝かせる八戒に、俺は全てを理解した。 つまり、気功の衝撃波を利用して、あのマヨネーズは作られたということだ。 作る側も食う側も満足しているから、何も言う事はないんだろうけど。 精神的にすんげぇ疲れたのは、俺だけか? どっとはらい。 |
あとがき 4番目の気功の応用法(笑) この数日前に見た某近未来予測テレビから浮かんだひとコマ。 あの実験、少し前に別の番組でも紹介されていて、注目度が高まりつつあるようです。 実験の中には、特売肉を高級肉並みに柔らかくするというのもあって、長安時代だったらこっちを試したかもしれませんね。 |
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