週2回悟空の家庭教師を それに応えるのは、これ以上ないくらい端的な部屋の主の声。 「入れ」 「失礼します」 律義に言いながら入室した八戒の眼に入ったのは、難しい顔で額を押さえる最高僧の姿。 「頭痛ですか?」 「ああ。それに肩こりも酷い」 そう言って肩を拳固でトントンと叩く。 その様子をしばらく観察していた八戒の片眼鏡がキラリと光った。 「それって眼瞼下垂ですよ!」 「あぁ?」 普段は常識人の皮をかぶっている目の前の人物の本性を知っている三蔵は、胡散臭げな目付きで相手を見た。 だが、当の本人はお構いなしに喋り続ける。 「加齢や目を酷使し続けていると、瞼を支える筋肉が衰えて、瞼が目を塞いでしまう病気なんです。 前兆として、瞼の筋肉の代わりに額や頭、首の筋肉が後ろから支えるから、頭痛や肩こりが起こるし、額に皺が刻まれるんですよ。 実際貴方、目尻が致命的に下がっているじゃありませんか、瞼が下がってきている証拠ですよ!」 「目の形は元々だ(怒)」 「このまま放っておくと、瞼が開けにくくなって視界が欠けてしまう可能性もあります。 元々目が小さいといったって、糸目になるなんて絶対に格好悪いですよ」 紫鴛「悪かったですね、格好悪い糸目で」 「・・・今誰か何か言ったか?」 「・・・次元の異なる世界の人のようです。気にしないでおきましょう。 それより、そんな事ではぐらかしても駄目ですからね。きちんと対策をとっていただきます」 「対策?」 「現在は形成外科で瞼の形を戻す手術が受けられるそうです――って何処へ行くんですか三蔵?」 「いや、その、用事を・・・」 「そうやって目を酷使するのが悪化させるんだとさっきから言ってるでしょう? ――解りました。貴方がそのつもりなら、僕にも考えがあります」 「な・・・?」 (間) 「あ、八戒、来てたんだ!三蔵の書類を社務所に持って行ってたから、ちょっと遅くなっちまった、ゴメン!」 「いいえ、僕の方が少し早かったので、時間ぴったりですよ」 「・・・・・・八戒、そっち、仮眠室のドアだけど、三蔵寝てるの?」 「いえ、バリケードを張って閉じこもっているだけですよ」 「???」 「それより悟空、これからは三蔵に廻す仕事を2/3に減らせないか、 「え、三蔵、具合悪いの?」 「身体ではなく、目がねぇ・・・このままだと失明してしまう恐れが・・・」 バンッ ゴンッ 「※Л☆£◆◎Й〜〜〜っっ!!」 「阿呆がっ、単細胞サルに余計な事吹き込むんじゃねぇ!!」 「俺単細胞じゃねぇ!」 「って、何で心配している僕が怒鳴られなきゃならないんですか?」 「ほーぉ、心配とな。よし解った、お前、俺の仕事の一部肩代わりしろ」 「・・・は?」 「俺に廻ってくる仕事は書類だけじゃねぇ、現地調査の必要なものやその報告書の作成など、多岐に亘る。俺でなくても、結果を俺の名で挙げればいいものはお前が請け負え。必要ならあのバ河童を連れてもいい。経費は出す」 「ちょ、ちょ、ちょっ」 「「長栄ホーム」」 「何で2人して同じツッコミなんですか――ってそうじゃなくって!」 「何か文句があるのか、俺の負担を減らそうと思ってんだろ」 「・・・・・・いえ、あの・・・はい・・・」 こうして八戒は、なし崩し的に三蔵の隠密役を引き受けることになった。 『猪八戒』が世に出て、半月程の話―― どっとはらい。 |
あとがき 元ネタは某ブラックホスピタル(笑)。 以前に悟浄相手に同種の小咄を書いたのですが、今回の症状は悟浄には似合わないので、三蔵サマで。何気にアニメキャラ出てますが(汗)。 で、書いてみるとオチがつかない。この2人、悟浄と違ってパワーバランスが均衡していますからね。結局、微妙な落ち着き方になりました。 あ、『都寺』というのは寺の社務の総括部署を指します。 それと、途中に出て来る三蔵&悟空のツッコミの元ネタは、「ちょちょちょ、長栄○ーム♪」という某不動産会社のCMです。多分地域限定; |
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