尊き労働を終えた俺は、賭場へ行くまでに汗を流して一休みしようと、我が家へと向かっていた。 まだまだ残暑は厳しく、一番暑い時間帯に太陽の下で働くと、着ているシャツが汗だくだ。 以前なら――こんなに一生懸命にはなってなかった。 頼るツテなら山ほどある。運の良い時は博打だけで食っていけたし、調子の悪い時はちょっと甘い言葉で女の子をソノ気にさせて、しばらく厄介になれば良かった。 10代半ばにはそこらの大人の背を越えていたので、腕力を見込まれて多少のヤバい事に手を貸した事もあった。 丈夫な身体と有り余る体力、それを労働という目的で使うようになったのは、 「家族――か・・・」 何の因果かはたまた運命の悪戯か、数奇な巡り合わせで現在同居中の碧の瞳の優男。 虫も殺せなさそうな線の細い外見を裏切って、桃源郷で一・二を争う大妖怪を腕一本で葬り去ったという恐ろしい経歴の持ち主だが、『大切なもの』を喪った者同士、今は何とか上手くやっていっている。 今日もキンキンに冷えた麦茶(大量の汗をかいた直後にビールは良くないと薀蓄を垂れていた。細かい事は覚えていないが)を用意してくれているだろうと考えながら、家の戸を開けようとしたら、 バンッッ 一瞬の事で、何が起こったのか不覚にも理解出来なかった。 物凄い音と共に視界が暗転し、気が付いた時には何故か扉の前で大の字になっていたのだ。 しかも頭はクラクラするし、鼻や額はズキズキする。 状況からして、扉が内側から開いて俺の顔を直撃した事までは理解出来たが、その理由は未だ不明だ。 と、足元にメモ用紙のような物が置かれている事に気が付いた。 庭の石を重石に乗せられているので、人為的であるのは間違いない。 まだ痛む鼻を押さえながらそれを手に取り、中身を広げてみた。 そこには、同居人の達筆な文字で、 『貴方のご家族を大量に発見致しました。 団欒を邪魔するに忍びないので、しばらく戻りません』 ・・・・・・・・・・・・ 「はいぃっ!?」 俺の家族って兄貴?大量って、まさか兄貴が嫁さんもらってガキ連れて来てるとか!?や、それはそれでいーけど、これまで手紙とか全く無かったのに!?そもそも何で、10年近く前に失踪した兄貴が今の俺の住所知ってるんだ? てか八戒サン家出って、兄貴が来たくらいで何でまた!? 先程の顔面強打のショックが冷めやらないうちに別のショックを受けた俺は、軽くパニックに陥りながら、家の中に足を踏み入れた。 兄貴が嫁さんとガキを連れているってんなら、挨拶が必要だ。 だが。 「・・・・・・・・・あれ?」 誰もいない。 ダイニングにもリビングにもキッチンにも、兄貴はおろか人影など全く見えない。 さっき俺が意識をトばしている間に出て行った?ンなわきゃねーよな。 ・・・・・・・・・ん? キッチンの様子に違和感を覚えた俺は、もう一度そこをぐるりと見渡した。 違和感の正体は冷蔵庫。 普段よりも20cmは手前に迫り出している。 よくは解らないけど、取り敢えずこのままでは前を通れない。 そう思って冷蔵庫に手を掛けた時、かすかな音がした。 カサ、カサカサ・・・・・・カリ・・・・・・ 「?」 チラシでも下に落ちているのか、と押し込むつもりだった冷蔵庫をえい、とばかりに引っ張り出すと、 カサカサカサカサカサカサッ 「Π#Φ∵◆υ△●л☆〜ッ!!?」 一度に4、5匹のゴキブリが、冷蔵庫の下から足元を掠めて四方に散っていった。 しかも、逃げずに残っているものも、干からびきった死骸も複数ある。 八戒の言う『大量のご家族』がコレを指してる事を悟った俺は、トホホ、と涙を流しながら殺虫剤と掃除用具を探し始めた―― どっとはらい。 |
あとがき 沙家のゴキ○リ事情第2段(爆)。 てか実生活で○キブリ見る度にネタにされる悟浄が哀れ。 言っときますが実際に香月家で見たのは1匹だけです!(主張) が、そいつが冷蔵庫の下に入り込んで、女の細腕(←嘘こけ)では動かせないので、悟浄に八つ当たり(もはや恒例)。 あ、もちろん八戒の家出先は慶雲院です。 宿坊を借りて、宿代代わりに三蔵の臨時秘書をしてみたり、悟空の家庭教師の時間を充実させたり。 で、3日後に迎えに来て平身低頭な悟浄に、『仕方ないですねぇ』と言いながら帰っていくんです。 悟空や三蔵からも、『別にすぐ帰んなくてもいーじゃん。また出るかもしんねーし』『馬鹿デカい親玉ゴキブリを退治するべきじゃねぇのか』とか散々言われてそう(笑)。 で、八戒誕生日の日記ssがこんなんでホント御免なさい!!(平謝) 悟浄「俺には謝罪無しかよ!?」 |
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