正月早々ナニ書いてんだか(汗)





 坊主も走る師走というが、実質は年明けの睦月になってもその多忙さは鳴りを潜める気配もない。
 祈祷会に護摩焚き、祓いに祈願に鎮魂、果ては茶会まで行われるのだから、当人は心身ともに疲労困憊だ。
 結果、師走に入る前には通常2本ある三蔵の眉間の皺は、小正月の頃には倍の4本に増えるという(悟空談)。
 そういう状態だから、普段三蔵がどんなに忙しかろうと気にすることのない悟空も、流石に場の緊迫感に耐え切れなくなる。
 そんな時、救いの手を差し伸べたのは悟浄と八戒だった。
 曰く、クリスマスから人日(1/7、七草粥を食べる日)まで預かりましょうと。
 実際はクリスマスからといわず師走に入ると同時にでも頼みたい三蔵だが、正直一般家庭(?)の台所で悟空の食事をまかなうには半月程度が精一杯だろう。
 悟浄が煩いので経費を前払いし、こうして悟空は半月限定の居候として沙家にやってきたのだ。


「あけましておめでとうございまーす(×3)」

 小さいながらも徹底的に磨き上げられた沙家のリビング。
 新年の朝、いつもの面子が、しかしちょっぴりいつもとは異なる雰囲気で顔を見合わせ、挨拶する。

「しっかしまぁ、よくもこんなにベタな正月の迎え方をするようになったもんだぜ」
「本来は清らかな心と体で新しい年を迎えることで、その年の平安を祈願する風習ですからね。飲んだり騒いだりという不健康な年の越し方なんて本末転倒もいいところです」
「なあなあ、何か色々作ったんだろ?俺早く食べたい!」

 食に関しては特に目ざとい悟空が、八戒が普段と違い様々な料理を作っていたのを見逃す筈もない。

「えぇ、おせち料理なら、ここに・・・」
「わーい、早く蓋開けて・・・」
「――その前に」
「・・・え?」
「まずはこちら――御屠蘇です」
「おっとっと?」
「待て待て待て待て、そこは伏せろ悟空」
「まあまあ、流石にこの単語ですぐに某スナック菓子を連想する人もそういないでしょう」
「追い討ちをかけんじゃねぇ!」
「あーもう、話が逸れてしまうじゃないですか。
 御屠蘇というのはですね、日本酒もしくはみりんにキキョウ・ボウフウ・サンショウ・ケイヒ・ビャクジュツ・チンピ・チョウジを一晩漬け込んだもので、食事の前にまずこれを飲むことで身体の中の邪気を祓い、健康を祈願するとされています。
 ちなみに漬け込む生薬にはきちんと効能があり、キキョウはこの季節にかかりやすい喉風邪の症状である喉の痛みを抑えて痰を切ります。秋に紫の綺麗な花を咲かせる桔梗の事ですよ。そしてケイヒ――これは実はシナモンの事なんですが――やチョウジ――こちらはクローブとも言いますね、スパイスの一種なんですよ――は、腹部を中心に身体を温め、風邪を改善したり胃もたれなどの胃腸症状を緩和したりする作用があります。同様にボウフウやサンショウ――えぇそう、焼き鳥などにかける山椒の事ですよ――も汗をかいて体内の老廃物を出しやすくすることで風邪や胃腸症状を軽減する効能が知られていますね。そしてビャクジュツは邪気を祓う植物として知られている他、お腹の張りや倦怠感に効果があるとされる万能薬です。あとチンピというのは実はミカンの皮を干したもので、これも風邪の予防の効果に加え、胃の調子を良くしてこの後の御馳走を受け付ける準備を調えるとされているんです」
「「よーく解りました。解りましたので早く飲みましょう」」
「そうですね。では悟空、悟浄、僕の順番で・・・あ、御屠蘇は年少者から飲むんですが、これは若さを分けてもらうという意味と、実は毒見の名残もあると言われています。
 大昔、権力者は毒による暗殺を防ぐ為、家臣に自分が口に入れる物を先に食べたり飲んだりさせて毒の有無を確かめたのですが、即戦力となる家臣より、年若い子供にその役目が命じられたケースもあり、これは子供の方が毒に対する感受性が高い事を・・・」
((誰か何とかして・・・))



 どっとはらい。



あとがき

御屠蘇一杯飲むまでに小一時間雑学を披露出来る八戒さん(笑)。
屠蘇散(御屠蘇の元となる生薬を配合した物。これを酒などに漬け込む)の成分は製造会社、地域などによって多少異なってくるそうで、旧家などでは更にオリジナルレシピもあるそうですよ。
今回は一応悟空が最年少という扱いですが、500年は無視していいでしょうかね?




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