今年のバレンタインデーは、平日である。 平日ということはつまり、職場で堂々とチョコのやり取りが出来るということだ。 もちろん、業務に支障をきたさない範囲で、という条件が付くが。 「部長♪」 女性社員の呼び掛けに、期待しつつ振り向けば、 「これ・・・どうぞ♪」 差し出されたのは、某有名メーカーのチョコアソート。 おぉ、本命仕様じゃん。 頬が緩みそうになるのを、慌てて手で押さえる。 が、 「秘書室の皆で買った物です。専務や悟空さんと分けて下さいね」 続けられた言葉に、コケそうになる。 何度目だよ、この台詞。 女性の後姿を見送りながら、アイビーグループホール部門営業部部長(肩書きだけは大層だが、やる事は結局営業廻りだ)の悟浄は、左右の手に下げられた紙袋を見やる。 本社各部署の女子社員が、それぞれ悟浄に渡したチョコだ。 但し、悟浄個人宛の物は一つも無い。 誰もが判で捺したように『皆でどうぞ』と言って渡してきた物だ。 と、 「モテモテですねぇ、悟浄」 「おーそりゃ嫌味か、今ならこのチョコ全部と交換で買ってやるぞ」 「いぃえぇぇ、僕は次の日曜に本命をもらう予定なので」 「嫌味の次は惚気かよ。しゃーねぇ、猿と半々だな。 ん・・・?そういや、ここんとこ、『会長と周りの皆様』とは言われなくなったな? アレか、婚約したのが効いたのか?」 「それもあるかも知れませんが、義理でも渡したい人はいるでしょう。 でもあの人は計都さん一筋ですから、受け取るつもりなんてさらさらないでしょうし、会長秘書としてこの場を丸く治めるべく一計を案じたんです」 「どんな?」 「『会長は糖尿病の気がある』って、それとなく」 「わははははっ!何ソレ最高!」 喋りながら、2人は会長室の前に立つ。 「あれ・・・?」 「どうしましたか、悟浄?」 「や、なーんか、ヤな予感が・・・」 ドアの向こうから漂う・・・殺気? 「あぁ、成る程」 「何、心当たりあんの?」 「まあ大丈夫ですから、開けて下さいよ」 コンコン カチャ 「うぃーっす、この前のイベントの報告書と、猿には毎度おなじみバレンタインのお届け物・・・って、三蔵様?」 「よくもいけしゃあしゃあと、俺の前に面を出せたな・・・」 「へ?一体何の・・・」 パタン 「え?八戒サン?コレ一体どーゆー事?」 慌てて駆け寄るが、会長室の外から閉められたドアは、なぜかノブを回してもびくともしない。 と、ドアの向こうから、悟浄を閉じ込めた張本人の声。 |
「えぇとですねぇ、さっきの話ですが・・・」 |
「は?さっきって、チョコを皆で分けるっての?」 |
「その後です」 |
「後?――あぁ、三蔵様が糖尿っての」 |
「その噂ですが、続きがあるんです。 『・・・って悟浄が言ってたような』って」 |
「ちょっと待ったオイ!」 |
「というわけで、10分間はこのドア開きませんから。じゃ♪」 |
じゃ♪じゃねーだろ、というわけでってどーゆーワケよ、さっき大丈夫ってったの嘘だったのかよってテメェ自分が大丈夫って事か、おいお前人をスケープゴートにしやがったな、つーかこのドア鍵は開いてるのに何で開かないんだよお前ナニしたの――そんな台詞が悟浄の頭を廻るが、 ドガッ 「さ・・・三蔵サマ?」 悟浄が縋り付いていたドアを、三蔵が上質の革靴を履いた足で蹴り付ける。 恐る恐る振り向けば、眼は据わっており、常に無表情な顔には酷薄な笑みを浮かべ、殆どヤクザ並みの迫力だ。 「つまらん噂なぞ流しやがって・・・この俺を病気持ちにするたぁ、イイ度胸だ」 「や、誤解!誤解だって!!俺の話を聞け・・・じゃなかった、聞いてクダサイ三蔵サマ!!」 「聞く耳持たんわ!!」 「〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」 その頃、隣のボディーガード待機スペース(会長室とも繋がっているが、もちろん廊下からも入れる)では、 「え、これ全部食っていいの?」 「えぇ、三蔵は計都さんからもらう物以外洋菓子は嫌いですし、僕も遠慮したいのでどうぞ食べちゃって下さい」 「悟浄の分はいいの?ってゆーか悟浄、三蔵からボコられてるみたいだけど?」 「放っときましょう。チョコも多分食べないと思いますよ」 「あっそう」 いつの間にやら悟浄の手からチョコの紙袋のみ奪い取った八戒が、悟空と和やかにコーヒータイムを満喫しているのだった。 |
―了―
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あとがき 悟浄は確実に八戒さんを怒らせるような事をしたに違いないかと(笑)。 一応Celestial sound and Spiritual melody舞台なので、三蔵様には当館オリキャラ計都が、八戒さんにはドリームヒロインがいる状態。 当館の八戒さんは、やる時は徹底的に、自分の手はなるべく汚さない、がモットー(多分皆様もそうですよね?)。 八戒さんの策略で三蔵様からボコられた悟浄、更に次の年度の昇給カットは決定のようです(南無)。 え、これバレンタインss?(爆) (2/15追記)何と、これを読んだ館長とりお氏が、悟浄救済措置としてssを書いてくれました!→こちら♪ よーし、これからもどんどん悟浄をいびり倒して・・・ 悟浄「マジやめてくれ!!」 |
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