3.荒野 「・・・・・・行くのか」 「・・・・・・ええ」 「言っちゃあ何だが、500年前とは訳が違うんだぞ」 「解っております・・・それでも、私は行きたいのです」 「お前の事など、何一つ覚えていなくてもか?」 「前世の記憶を有している方が稀有でございましょう。 記憶など関係ありませんわ・・・只、『あの方』のお傍に在ることだけが許されれば」 「碌なモンじゃねぇぞ、お前さんの歩く道は」 「ええ、そうでしょう・・・・・・ですが私は・・・私は、此処で留まっているわけにはいかないのです。 喪う事を憂いて只俯いて過ごしたあの日々を、繰り返したくはないのです。ですから――」 「・・・そうか・・・そこまで言うんなら、止めはしねぇよ。俺は此処で見守っていく」 「有り難うございます・・・・・・観世音様の御多幸を、お祈り申し上げます――」 「ああ。お前さんも、達者でな――」 銀の髪が滝のように流れる美しい後姿を見送る。 彼女が下界に降りてヒトに化身しても、恐らくその美貌は変わらずに在るだろう。 しかし、そんなものは話にならない程の苦が、彼女を苛むことになる。 けれども、彼女は求めるために手を伸ばす。 目の前に広がるのが果てしない荒野でも、その手に入るのが只一握りの土くれでも――それでも、 「足掻いて足掻いて・・・少しずつ進むんだろうな、お前達は」 |
あとがき 桃源郷メインの外伝。 観世音菩薩が会話を交わしていた相手の正体は、後程。 お題No.26に続きます。 |
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