20年前、天界にて





3.荒野


 「・・・・・・行くのか」
「・・・・・・ええ」
「言っちゃあ何だが、500年前とは訳が違うんだぞ」
「解っております・・・それでも、私は行きたいのです」
「お前の事など、何一つ覚えていなくてもか?」
「前世の記憶を有している方が稀有でございましょう。
 記憶など関係ありませんわ・・・只、『あの方』のお傍に在ることだけが許されれば」
「碌なモンじゃねぇぞ、お前さんの歩く道は」
「ええ、そうでしょう・・・・・・ですが私は・・・私は、此処で留まっているわけにはいかないのです。
 喪う事を憂いて只俯いて過ごしたあの日々を、繰り返したくはないのです。ですから――」
「・・・そうか・・・そこまで言うんなら、止めはしねぇよ。俺は此処で見守っていく」
「有り難うございます・・・・・・観世音様の御多幸を、お祈り申し上げます――」
「ああ。お前さんも、達者でな――」






 銀の髪が滝のように流れる美しい後姿を見送る。
 彼女が下界に降りてヒトに化身しても、恐らくその美貌は変わらずに在るだろう。
 しかし、そんなものは話にならない程の苦が、彼女を苛むことになる。
 けれども、彼女は求めるために手を伸ばす。
 目の前に広がるのが果てしない荒野でも、その手に入るのが只一握りの土くれでも――それでも、

「足掻いて足掻いて・・・少しずつ進むんだろうな、お前達は」







あとがき

桃源郷メインの外伝。
観世音菩薩が会話を交わしていた相手の正体は、後程。
お題No.26に続きます。



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