06.ポラロイドカメラ ※注:この話は原作に基づいた死にネタを含みます。それでも宜しければ此方からどうぞ。 天界西方軍元帥の部屋に呼ばれた3人が入ると、部屋の主は三脚に乗せた小さな黒い箱と格闘中だった。 「をーい元帥殿ー、何スかソレ?」 「・・・また妙なモン下界から拾って来やがったな」 「天ちゃんの『しゅみ』だもんなっ」 「揃いも揃って失礼な方々ですねぇ。これは『カメラ』といいまして、目の前の物をそっくりそのまま一枚の紙に写し取る機械なんですよ」 「絵を描くのか?その小さな箱が?」 「えぇと・・・『描く』のではなくてですね、ここの目のようなところから取り込んだ光の陰影を薬品で加工した紙に直接焼き付けて・・・」 「せんせーい、言ってる事が全っ然解りましぇーん」 「まあ、論より証拠、実際にやってみましょうよ。 皆さん、そこに立って下さい――あぁ、悟空は前に出て、その後ろに僕達が並ぶのがいいですね。 金蝉は悟空の真後ろで、隣に僕が立つスペースも空けておいて下さい」 「「「こうか?」」」 「・・・・・・あー・・・ちょーっと金蝉の背が高過ぎて顔が入りませんねぇ。 金蝉、中腰になれますか?」 「・・・こうか?」 「あ、そうですそうです。で、捲簾も金蝉に合わせて・・・」 「おう、これでいいか?」 「えぇ、そのまま出来るだけじっとしていて下さいね」 「・・・・・・・・・(必死でこらえている顔)」 「・・・元帥、早く済まさねぇと、このお坊ちゃまの体力がもたないぜ」 「金蝉、悟空の肩に手を置いて支えにして下さい。 悟空、少しの間だけ我慢出来ますか?」 「平気!」 「よし、これで全員入りますね。 10秒でここがピカッと光ります。その瞬間を写し取るので、その時目を瞑ると間抜けな事になりますよ」 「「「・・・・・・(まばたきを止めて凝視)」」」 「いえ、あの、ずっと目を開けていなくても、ここが光る瞬間だけでいいですから。 じゃあ、今から10秒ですよ・・・はい!10、9、8・・・」 カウントダウンしながら、自分の為に空けてもらったスペースに入る天蓬。 「6、5、もうすぐなので動かないでー・・・」 2、1・・・ ピカッ パシャッ 「「「!!?」」」 あの後、出てきた『写真』という物に、皆一喜一憂しましたっけ。 口も目もまん丸になった悟空。 いつも余裕っぽい笑みを作っている口が、『いっ!?』って形になった捲簾。 そして―― 思い出して、クツクツと笑いが込み上げてくる。 四六時中、年がら年中、常に不機嫌そうに眇められている目が、驚きに見開かれた金蝉の顔。 皆に笑われて『もう一度だ!』と悔しそうに言ったけど、残念ながら写真の基になる紙があれ一枚しかなくて、 破りそうになる彼を宥めるのは本当に苦労しました。 あの紙がまた手に入ればもう一度、と考えていたんですが、 「・・・これが、最初で・・・最後の一枚、ですねぇ・・・・・・っ、ふっ、ゲホッ、ゲホッ・・・!」 喋ったために血が気管に入ったのか、激しくむせてしまう。 少し呼吸が落ち着くと、血まみれの手を服で拭い、その手でポケットを探って写真を取り出した。 「良かった・・・破れてない・・・」 自分の身体を切り裂いた刃は、運良くこの写真には当たらなかったようだ。 先へ進ませた、金糸の髪の持ち主と 「・・・・・・どうか・・・無事、に、下・・・界・・・へ・・・・・・」 天蓬が最期を迎えた場所に、1つの影が近付く。 影の主は手を伸ばし、床に落ちていた写真を手に取った。 「はは・・・良く撮れてんじゃねぇか」 もらってくぜ・・・愛する甥と、あいつを腐った日常から解き放ってくれた連中の思い出として―― |
あとがき 書いててまた涙が出そうになりました。前半部分だけで終わらせときゃ良かったと思ったんですが、こんな展開に。 マイクが存在する天界にカメラがあるのかないのか微妙なのですが、ここでは存在しない設定。 フイルムの生産が中止されてしまったので、もうこれまでのようなポラロイド写真は見られなくなるんでしょうね。 あと数十年もすれば、銀板写真と同じ扱いになるのかもと思うと、ちょっと悲しいかも。 代わりにプリンタを搭載し、その場でプリント出来るデジカメという形で、今後存続していくそうです。 ほんの少し、お題No.17とダブらせてます。 |
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