実際いつになったら帰れるんでしょうか?





 ※色々諸々すっとばして(笑)、西からの旅を終えた日の話です。












 長安に着いた俺達は、真っ直ぐに斜陽殿へ報告に行き、そこから三蔵と猿を慶雲院へ送った(実際は塀が見えた場所で下ろした。『三蔵様お帰りなさいませ』ムード満載の場所に近付きたくはねぇからだ)俺と八戒は、何年振りかで懐かしき『我が家』への道をジープで走っていた。

「あー、懐かしいですね。この林道」
「そーだな」
「今日はもう遅いですけど、明日八百屋の小母さんに預けた糠床を受け取りますから、早速糠漬けを作りますね」
「おー。やっぱうちの糠漬けが一番だよな。
 朝食には浅漬けもイケるけど、やっぱ夕メシには糠漬けのキュウリやナスをつまみながらキューッと一杯、てのがイイのよ」
「はいはい。明日はお酒も買いましょうね。取り敢えず、荷物に多少残ってますから、今日の晩酌はそれでやりましょう」

 そんな他愛もない事を話しているうちに、見覚えのある形の一軒家が視界に入ってきた。
 街灯の殆どない郊外で、星が見え始めているこの時間、殆ど輪郭しか判らないが、間違いなく俺達の家だ。
 ジープから降りた俺は、ポケットから鍵を取り出した。
 旅の間、荷物の底にずっとしまいっ放しだった、この家の鍵だ。
 錆び付き防止のために取り付けた鍵穴カバー(あの慌ただしい出発直前に、よくもここまで考えが及んだものだ・・・もちろん八戒が)を外し、鍵の先を当てる。

「開けて下さい、家主さん」
「おうよ。んじゃ、Open the door!」


 カチリ


 鍵はすんなりと回り、ちょっとこもった、でも懐かしい匂いが鼻に飛び込んできた。

「電力会社には既に連絡を入れてるので、あとはブレーカーの主電源を入れればいい筈なんです」
「そーか。ちょっと待ってな」

 八戒を玄関に待たせ、荷物の中からペンライトを取り出して一人家の中に入った俺は、記憶を頼りにブレーカーのある洗面所のドアの真上の壁を照らす。
 ・・・・・・ん?
 何か今、ペンライトの光の端でナニか影が動かなかったか?
 ――いや、目の錯覚か。
 常に襲って来る敵の気配を窺いながら旅をしていたせいだろう、妙に神経過敏になっちまったかも知れねぇ。
 ま、それももう終わりだ。
 特に具体的な計画はないけど、しばらくは八戒と2人でのんぴり気ままなその日暮らしに戻るんだ。
 そう感慨に耽り、ブレーカーのスイッチに手を伸ばしたが、


 カサ・・・カリ・・・


 背後で、ごくごくかすかな音が聞こえた。
 ついでに、気配もする・・・気がする。
 あー・・・何かコレ、昔にもあったカモ。
 妙にノスタルジックな気分にかられ、指を掛けていたブレーカーのスイッチをえい、と押し上げた。


 ガチン
 ガサガサガサガサッ

ブロロロロ・・・


 急に明るくなった室内を、何匹ものゴキブリが這い回る。
 あっという間に家具などの隙間に入ってしまったが、あの様子だと多分10匹20匹では済まないだろう。
 しかも八戒の奴、俺を置いてさっさと逃げやがった。
 エンジンを入れたタイミングからして、俺より先にゴキブリの気配に気付いてジープと一緒に回れ右したに違いねぇ。
 ・・・って事はナニ、この大量のゴキブリ、全部俺が退治しなきゃなんねぇのか?
 トホホ、と滂沱の涙を流し、旅が終わって最初の仕事(最初の仕事がコレか!)に掛かるべく掃除用具入れに向かう俺だった――



 その夜の慶雲院――

「――というわけでして、あの家がヒトの住める状態になるまで、不束者ですが宜しくお願い致します(にっこり)♪」
「・・・あの親玉赤ゴキブリを始末せん限り、無理じゃねぇのか?」
「てゆーかさ、諦めてここに住んだ方が良くね?」
「あはははは」

 孤軍奮闘する悟浄の苦労など何所吹く風の3人がいましたとさ。



 どっとはらい。



あとがき

沙家のゴキブリ事情第3弾。
実生活で、ゴミの中にアレが入り込んだので、すぐさま袋を縛って捕獲・・・したのはいいのですが、ゴミの日は2日後なのでどうしようも出来ず、現在玄関に放置(袋は3重にして、結び目の隙間はガムテープで塞ぎました)。
たまにカリカリカサコソと音がします(嫌)。
そんな時には悟浄に八つ当たり☆(既にパターン化)
西から戻って来た後の話って、ちょっと貴重かも。
でも、何年も放ったらかしのあの家が、西から帰って来た時にはゴキブリの巣に・・・ってネタは、多分誰でも考えるんじゃないでしょうか。
あの家のブレーカーの場所については、ちょっと前の日誌ss参照。




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