彼岸の彼女、此岸の彼







※この話では、貴女は最遊記キャラの娘として登場します。一般的なドリーム小説のような恋愛はしませんので、その点ご了承願います。
また、話の都合上誕生日を固定させていただいております。何卒ご容赦下さい。








 都市部ではようやっと残暑が遠ざかったばかりだが、流石に山間部に足を踏み入れると、厚手の長袖が必要になる涼しさだ。この分だと、夜は更に気温が下がるに違いない。
 指定の駐車場に車を停め、舗装されていない道を歩くこと数分、
 山林に囲まれた静かな場所に立つ、コテージ風のログハウスの扉に手を掛けた。



 カララン



 カウベル風のドアチャイムの心地良い音が、周囲に人の来訪を告げる。
 しかし、ぬくもりのあるその音に反応する人々の顔は、皆どこか張り詰めた気配を持って、こちらを一斉に向いた。

「よう、お前さんが最後だぜ、八戒」
「悟浄、お久し振りです。――三蔵、悟空、ヘイゼルも」
「・・・フン」
「久し振り、八戒!」
「相変わらず、眼鏡の向こうで何や企んでそうな顔しとんなぁ」
「ヤですねぇ、貴方は眼鏡なしでも何か企んでそうじゃないですか♪」
「ふふふふふ」
「あはははは」
「こいつら、変わんねーな・・・つか、室温下がってる下がってる」
「・・・悟空、暖炉の薪を足せ」
「判った」

 積み上げられた薪から3本ばかり取り出し、暖炉の火へと投げ込む。
 一瞬舞い上がった火の粉が、空中で燃え尽き、消えて行った。
 その時、

「皆様お揃いでしょうか」

 突然、上方から掛けられた声に、ホールにいた全員がハッとして顔を上げる。
 階段途中の踊り場に立ち、こちらを見下ろす人の姿。それは――

「――子供?」

 年の頃は7歳程度だろうか、しかし口調や顔付きに子供らしさはなく、見た目の年齢よりも随分と大人びている。
 黒いドレスに身を包んだ姿は、人形のように愛らしいと言えなくもないが。
 少女は、トコトコと階段を降りて来ると、男達にぺこりと頭を下げ、自己紹介した。

「初めまして。私、と申します」
「えぇと・・・初めまして、僕は八戒。そちらに座っているのが、向かって左側から三蔵、悟空、悟浄、ヘイゼルといいます」

 この場にいる全員を代表し、八戒が全員の名前を伝える。

「僕は、これを受け取って此処に来たんですが・・・皆もですよね?」

 他のメンバーに見せるようにかざした、一枚の葉書――男達は、それを見て頷く。
 『皆に会わせたい人がいます。あの頃のように、久し振りに集いませんか』――そのような内容の文面と、今日を示す日時。
 ここは、三蔵の父親が経営するペンションだ。
 彼らの学生時代は、長期休暇の度に1週間ばかり貸し切って、気ままに時を過ごしたものである。
 普段は一般人も利用出来、雇われの管理人がいて世話をしてくれるし、干渉されたくなければ、予約の際に伝えれば退去日まで一旦引き取ってもらうことも可能であるが、今回、その姿が見えないところを見ると、どうやら後者らしい。
 それにしても、

「何だって、貴様みてぇなガキが此処にいる」

 流石に、声も姿も小学校低学年と思われる子供からの予約を管理人が受け付ける筈もない、そう踏んだ三蔵が幼女を睨み付ける。

「ここを借りたのは私の祖母です――と言っても、孤児だった母を引き取って育てた人なので、血の繋がりはないんですけど。
 そして皆さんに手紙を送ったのは、先日他界した私の母――花喃です・・・」
「・・・・・・っ!!」

 その名を聞いた全員が、息を呑む。
 花喃、それは、彼等に宛てられた葉書の送り主であり、彼等と同じ大学のサークルに所属していた、ある意味マドンナ的存在だった女性の名だ。
 全員が在学していた当時、4年生の三蔵を筆頭に、3年生の悟浄・八戒・花喃、2年生のヘイゼル、1年生の悟空と、学年こそ違うものの、何とはなしに気が合った(一部疑問符が付くが)彼等は、大学の外でも交流することが多かった。
 三蔵の卒業後も今いる別荘を利用する目的で連絡し合うことが多かったのだが、八戒達が卒業した頃から次第に互いの距離は遠のき、
 いつしか、メールの遣り取りすら無くなってしまっていた。
 こうして全員が顔を合わせるのは、かれこれ6・7年振りになるだろうか。
 疎遠になったきっかけといえば――

「――カナ姉が、卒業してしばらくして、急に連絡が取れなくなって・・・」
「ご家庭の事情で引っ越すとは言ってましたが、それっきり音沙汰なしに・・・」
「って、ちょい待て、まさかあいつ・・・」
「腹にやや子(赤子)が出来たんをきっかけに・・・?」
「確かに、あれから7年だから、計算は合う。それに――・・・」

 言われてみれば少女の口元などは、彼女のそれに良く似ていて、
 あと10年もすれば、彼らの知る彼女の姿に瓜二つになることは、容易に想像出来た。

「――お前があいつの子供というのは理解出来た。で、さっき言ってたな、『先日他界した』というのは――」
「・・・癌でした。母は、自分が余り長く生きられないと知って、何とかして私を父親に会わせようと考え、この別荘に皆さんを集めることにしたようです。残念ながら、夏になって急に病気が悪化して、入院したきり良くなることはありませんでしたが――・・・」

 そこで初めて、少女が山に不釣り合いな黒いドレスを身に着けている理由を知った。
 喪服、なのだ――母を悼む為の。
 だが、同時に、少女の言葉が重大な内容を含んでいる事にも気付く。

「父親って、おいまさか――」

 悟浄の表情が強張る。

「母は、この中に私の父がいると言ってました――」
「・・・・・・ッ!!」








 男達は、互いに視線を交わし合う。その表情は、お世辞にも喜ばしいとは言い難く、むしろ探りを入れるといったものに近い。
 無理もない話だ。既に皆25歳を超え、三蔵・八戒・ヘイゼルはそれぞれ社会的地位や婚約相手のいる身だ。
 悟浄や悟空は割と気楽な身分だが、それでも現在交際中の相手はいる。

「なあ嬢ちゃん、あんたお母はんからお父はんの名前は聞いとんの?」
「いいえ。でも手紙を持たされています。父である人に宛てて、母が書いたものです。
 あくまでも父宛の手紙なので、私はもちろん、父以外の誰も開けてはいけないし、読んでもいけないと言われています」
「此処は貴女のお祖母様が借りたと言ってましたが、そのお祖母様はどちらに?」
「自由にならない身だということで、私だけここへ来ました」
「祖父ちゃんは?いねーの?」
「私が生まれる前に他界したそうです。今は祖母の家で2人で暮らしています。あ、家の事をする人もちゃんといますよ」
「家の事をする人・・・使用人、ですか」
「あー・・・確か花喃(あいつ)の育ての親って、確かそこそこの金持ちだっつってたっけか」
「なら、この子供(ガキ)を父親に会わせようとしたのは、養育費目的ではなさそうだな」
「養育費目的やのうても、この先年寄り一人ではよぉ育てん言うて引き取らせる気ちゃうん?」
「カナ姉がそんな事するかなぁ・・・」
「花喃は、死の直前に、お義母様にこのペンションの手配を頼んで、その上で僕らにこの葉書を寄越しています。本当は、あの子に親子3人で過ごす時間を作ってあげたかったんじゃないでしょうか・・・」
「普段よぉ悪知恵働く割には、惚れた女に対しては甘いんとちゃう?」
「悪知恵に関しては、誰かさんには敵いませんよ。それに、貴方だって彼女に付きまとっていたじゃないですか」
「ハ、人聞きの悪い事言わんといてぇな。そもそも最初花喃はん、三蔵はんと付き合ってたんやろ?一番怪しいんやないん?」
「人を巻き込むんじゃねぇ。俺は関係――・・・」
「無いって言い切れるかな、三蔵サマ?あのね、胎児の月齢は最終月経日から計算されるワケよ。だから、卒業後に妊娠が判ったとして――ちゃん、あんた誕生日はいつ?」
「10月10日です」
「そっかそっか。
 ――なら、俺達の卒業前の冬休み終盤から春休み初め頃の間にあいつとヤってるなら、充分可能性はあるの。お解り?」
「種蒔き河童に講釈される云われはねぇ!」
「ちょ、ちょっと2人共、子供の前ですよ!?
 ・・・さん、貴女お部屋は?もう荷物を置いてるんですよね?」
「はい。2階の一番奥です。母が昔ここに来たら、いつもその部屋を使っていたからって」
「じゃあ、ちょっと僕達皆で話をするので、夕飯まで部屋で待っていてもらえますか?
 一応、部屋の鍵は忘れずに」
「判りました」

 素直に応じ、来た時同様トコトコと部屋へ向かうを見送り、胸を撫で下ろす八戒。
 これから話し合う内容は、少女に聞かせる類のものではない。
 ――と、

「・・・・・・・・・」
「どうかしましたか、悟空?」
「あ、うん、いや・・・」
「あ゛ぁ?猿、お前まさか・・・」
「サルじゃねぇ!あ、いやあの、カナ姉が卒業するよりちょっと前っていうから・・・その・・・」
「「「「マジか/かよ/ですか/かいなっ!?」」」」

 口ごもる様子から、導き出される内容は一つしかない。が、余りにも予想外で、他の4人は衝撃を隠せない。

「で、でも1回だけだし!ちゃんと双方合意の上だし!」
「や、落ち着けサル」
「だからサルじゃねぇって!」
「それ言ったらよ、まあ何だ、俺だってその頃に酔った勢いっつーか何つーか、全くシロってワケじゃねーし?」
「酔った勢いって、悟浄貴方・・・」
「犯罪だな。花喃(あいつ)は酒には酔わん。一方的に迫ったのか」
「や!でも、翌朝土下座して謝ったら赦してくれたぜ?」
「・・・悟浄、それ男として最低だってのは俺でも解るよ」
「ハ、情けないなぁ、酔った勢いで女押し倒して、翌朝素面に戻ってから土下座って、駄目男の典型やない」
「言ってくれるけどよぉヘイゼル、お前がシロって決まったわけじゃねぇだろ?
 俺達のいないところじゃ花喃にべったりだって聞いたことあるぜ?」
「なっ・・・!」
「ああもう、要するに僕達全員に可能性はあるって事ですよ」
「へ?」
「と言う事は八戒、お前・・・」
「えぇ三蔵、貴方が花喃と別れてから、一応それなりの事は」

 八戒の出した結論に――と言っても何の解決にもなっていないが――、一同は一斉に溜め息をついた。
 悟浄が、皆が今一番言いたい事を声に出す。

「じゃあ――どうすんだよ?」







一応八戒さんBDに間に合わせるべくupしたドリーム、といいつつまず恋愛対象じゃないという不親切設計(爆)

実はこれ、元ネタとなるドラマがありまして、そのため花喃姉様が相当アレな状態(苦笑)。

一番驚愕なのが、悟空まで疑惑の対象という(汗)。







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