猟銃の標準を江流に定めたまま、まるで思い出話をするかのように穏やかに話をする八戒さんに、江流は背筋に冷たい物が走るのを感じました。
「・・・貴様は、計都の何なんだ」
「誤解のないよう言っておきますが、僕にとってその人はあくまでもお得意さんのお嬢さんです。
ですが、僕の事を兄のように慕ってくれるその人が、みすみす魔の手に掛かるのを、黙って見過ごすわけにはいきません
はあぁ、僕としたことが、抜かりましたね。目の前の獲物に気を取られている間に、別の狼にテリトリーを荒らされるとは・・・」
「俺は狼でもねぇ、普通の人間だ!」
「騒がしいぞ、一体どうした」
・・・・・・・・・・・・
「ババァ、いやがったのか!?」
小屋の2階から降りてきたのは、何と江流のお祖母様。
その年齢不詳の美貌とは裏腹に、口調はかなり乱暴で、江流の口の悪さが誰に似たのかは一目瞭然です。
「よぉ江流、似合ってんじゃねぇか、その服」
「ざけんじゃねぇ!俺が親父に逆らえないのを承知でンな服送り付けやがって!!――って、そうじゃなくてだな!!」
「俺は光明に見舞いを寄越せとは言ったが、俺が留守だとは一言も言ってないぜ?」
確かに、光明氏の話の中で、お祖母様が留守だとは告げられていません。
ただ、それならば普通、先程八戒さんがライフルをぶっ放した時点で様子を見に来るでしょう。
つまり、これらは全て、お祖母様の予測の範囲内だったわけです。
それを悟った江流は、お祖母様の手の上で転がされたと、今更ながらに歯軋りします。
そんな江流の様子を面白そうに見ながら、お祖母様は言いました。
「――で、お前さん、計都のベッドに乗り上げてナニしようとしてんだ?」
そう。
江流は銃を取る際に片足は床に着いたものの、もう片足はベッドに乗り上げたままです。
言い訳の余地のないこの状況に、流石の江流も冷や汗が出るのを禁じ得ません。
このお祖母様が怖いのではなく、問題は、事の顛末を父である光明氏に知られる事です。
普段はおっとりのほほんな彼も、ひとたび逆鱗に触れるとそれはもう容赦の無い罰を与えられるので、江流にとって父を怒らせる事ほどこの世で怖い事はないのです。
そんな江流の様子を面白そうに見ていたお祖母様は、フッと微笑むと、
「んなビビることはねぇ。光明も俺も、お前が計都を見ればこうなる事は予想してたさ」
それはそれで、問題は多々あるのですが。
「元々そいつは事情があって俺のダチから引き取った娘。当然お前さんとも血のつながりはねぇ。
目の見えないこいつを、本気で一生護っていく覚悟があるなら、それなりに考えてやってもいいが、どうだ?」
「・・・・・・・・・」
つまり、江流の心根次第では、計都を妻に迎える事に光明氏もお祖母様も賛成して下さるというのです。
もちろん、否のある筈もありません。元々自分は、この少女に惹かれていたのですから。
「だからといって、すぐに手ェ出すのはNGだ。そうだな、100日通いを達成すれば、手を握るところから始めても良いだろう」
「100日で手を握るところからって遅すぎるだろうが!!」
「嫌なら諦めるんだな」
「っ!・・・くっそ・・・!!」
「目付け役は八戒、お前さんに任せる」
「承知しました奥様。
貴方も、紳士としての淑女への接し方というのを学ばないと、100日達成の前に猟銃で殺っちゃいますからね♪」
「あくまでも獣扱いか!!」
こうして、晴れてお祖母様の許しを得た江流は、毎日計都を訪ねるようになったのです。
当の計都といえば、あの時押し倒された事の意味も理解していなかったようで、毎日訪れる江流に機嫌良くお茶を煎れます。
そして、
「なんで手前まで毎日来るんだ!」
猟師の八戒さんも、毎日計都のお茶を呼ばれに来ます。
「お目付け役を頼まれたからには、一緒にいるのは当然でしょう?
安心して下さい、万が一の対応が必要になったとしても、計都さんの前で脳漿ブチまけるような真似はしませんから♪」
「ンな気遣いするくらいなら今立ち去りやがれ!!」
「へえ、いいんですか、そんな口の利き方をして?」
悪意は無いのに背筋の凍るような微笑みで、足元に広げた赤い毛皮の絨毯を示されれば、流石の江流も大人しくならざるを得ません。
江流が一人前の紳士となり、三蔵という名をもらい、正式に計都を妻に迎えるまで。
3人は毎日仲良く(?)お茶の時間を過ごすのでした。
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―了―
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あとがき
悟浄ファンの皆様本っっ気でゴメンナサイ!!
や、最初はフェードアウトのままぼかすだけだった筈なんですが、江流を脅す小道具として絨毯に;
最終的には納まるところに納まるんですが、やたらお祖母様と八戒さんが出張ってしまいました。
それにしても。
現代パラレルで10年以上待たせた反動か、フェアリーテイルの三蔵って手が早・・・ごほごほ。 |
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