Shinning sun and brilliant moon







 「まったく・・・少しは環境への影響というものを考えて欲しいですよね」
「まー、今に始まったことじゃねぇのは解ってっけどよ」
「う〜、まだ耳がグヮングヮン鳴ってるみてぇ・・・」
「激ウゼェ・・・」
「・・・フン・・・」

 もうもうと立ち込める土煙の中、口々にぼやく三蔵達5人。
 こちら側の人数が増えたためか、以前より更に質より量優先という感があった妖怪の襲撃だが、今回は少々厄介ではあった。
 追い詰められた最後の一人が、気違いじみた笑い声と共に自爆スイッチを押したのだ。
 状況を理解した三蔵の銃が火を吹くよりも早い出来事で、さすがの八戒も防御壁を張るだけの気を溜める暇はなかった。
 彼らよりも更に妖怪から離れていた悟空、悟浄、羅昂に至っては、八戒の声で訳も判らぬままに身を伏せるのが精一杯で。
 鼓膜が破れるかと思う程の轟音と地響きと。
 相当量の火薬が放出する爆風と火炎。
 全てが終わった後には硝煙の臭いと――そして焦げた血肉の臭いが辺りを満たした。
 ここ数年の間に、桃源郷の殆どの妖怪が牛魔王の蘇生をもくろむ玉面公主の配下となり、その意のままとなっている。
 『経文強奪』及び『三蔵法師の抹殺』――その命を遂行するためならば、己が命を投げ打つことも辞さない。
 まるで狂信者。
 ヘドが出そうだぜ――そんなことを考えながら、悟浄は傍らの木の幹にこびり付いた肉塊を一瞥した。

「にしてもお前さん達、あの近さでよく無事だったな」

 土埃を掃いながら歩いてくる八戒に問えば、

「あそこにある大木の影に廻り込んだんですよ」
「テメェの軽い脳ミソじゃそこまでの判断は無理だろうがな」
「(激ムカつく・・・!)いっそのこと大木に押し潰されてペシャンコになってりゃ、世の為人の為俺様の為だったのによ・・・」



 ガウンガウンガウンッ



「世の為人の為ってんなら貴様が死ね。害虫野郎」
「うわっ、シャレになんねえって!」
「あぁ、これが死の舞踏ってヤツですね♪」
「ちょっ・・・!おい八戒、そいつ止めてくれっ、いやマジで!」
「三蔵がペシャンコになってもいいということは、つまり隣にいた僕もペシャンコになっていいってことなんですよね、悟浄?」
「は・・・八戒さーん?」
「知らなかったですねぇ、悟浄がそんな風に考えていたなんて・・・見損いましたよ」
「ご、誤解だって!・・・わわ、わっ!」



 ガウンガウンッ



「無駄口叩いてっと舌噛むぞ」
「頑張って地の果てまで逃げて下さいね♪」
「・・・八戒殿、声音と気配が一致しておられないぞ・・・」
「つーか八戒、怖ぇ・・・」

 明日から後部座席が広くなるかも――そう考える悟空と羅昂を責められる者はいなかった。

 あーちきしょっ、今日の蠍座の運勢、ぜってー最悪だぜっ

 何故に星占いに拘るのかはさておき、悟浄が鉛弾の嵐をかわしながらそんな事を考えていた時、

「お?」

 視界の端に捉えたのは、巨大な大木。
 先程、三蔵と八戒が爆風を避けるために逃げ込んだという巨木である。

「やっぱ俺様、ツイてるかも♪」

 ラッキー♪とばかりに赤い触角をピョイと揺らすと、素早くその背後へと回り込んだ。
 大の大人2人が爆風から身を守ることが出来る程の大木である。当然、悟浄の姿は三蔵の視界から完全に遮られてしまう。

「チッ・・・クソが・・・」

 標的に安全圏に逃げられた三蔵は、忌々しげに舌打ちした。

「ま、弾の無駄使いも良くありませんし、その辺でいいんじゃないですか?」

 戦闘に巻き込まれないよう上空に逃げていたジープを呼び戻して肩にとまらせながら、タイミングを見計らって八戒が場を収める。
 その宥めるような物言いすら癇に障るのか、三蔵は再び舌を打つ。

 やだねぇ三蔵様ってば、カルシウム不足?

 実際口に出せば、大木越しだろうが何だろうが再び弾丸の雨を浴びることになるだろう台詞を敢えて口にはせずに、代わりにハイライトを咥えた。
 フーッと紫煙を吐けば、未だ漂う火薬と血肉の臭いに、煙草独特の臭いが混じる。
 この1本を吸い終わったら姿を現そう、そう考えながら再び紫煙を吐き出した瞬間、

「・・・へ?」

 地面が揺れた、最初はそう思った。
 しかし、動いているわけでもないのに移動する視界と、メキメキという音に、そうではない事を悟ったが時既に遅し。






 ズズ――――――・・・ン






 爆発の衝撃で既に根がその役割を果たさなくなっていた大木は、悟浄が凭れ掛かったことであっけなく倒れてしまった――悟浄ごと。

「「三蔵っ、大丈夫か/ですか!?」」

 悟空と八戒の声が耳に入る。

 ・・・倒れているのは俺なんスけど?

 どこか理不尽な言葉に片眉を上げながら身を起こすと、後頭部に何か硬い物が突きつけられた。

「・・・・・・えっと、三蔵サマ?」
「俺以外の誰だってんだ、このクソ河童」

 地を這うような低い声で呟く三蔵がまとっているのは、明らかに殺意を含んだオーラ。
 恐る恐る振り仰げば、倒れた大木のものらしい木の葉を盛大に金糸の髪に絡みつかせた三蔵が、据わった笑みを浮かべて銃口を自分へと向けていた。
 どうやら大木が倒れる際、枝葉の部分が彼を巻き込みかけたらしいと理解したのも束の間、

「この俺を木の葉まみれにするとはいい度胸だ・・・10倍にして返してやるから感謝しやがれ」

 但し、色は緑じゃなくて赤だがな。
 その言葉と共に、再び静かな木立に銃声と悲鳴が響き渡った。

「案外と騒々しい御仁だな」
「あれで結構周囲の影響を受けやすいんですよ」

 完全に傍観を決めている羅昂と八戒が、緊張感に欠けた会話を交わしていると、

「八戒ーっ、羅昂ーっ」
「悟空?」

 倒れた大木を珍しそうに観察していた悟空が、根の辺りから2人を呼んだ。

「どうかしましたか?」
「見てよ、これ」

 近付いた八戒にそう言って、悟空は地上に剥き出しになった根の中央を指差す。
 何百年もの年月を超えてこの木を支え続けてきた、大小幾千本もの根。
 幾重にも広がるそれに護られるように包まれた、木とは明らかに異なる円盤状の物体の存在が、八戒にも見て取れた。
 倒木の際の振動で根に絡んだ土が剥がれ、姿を現したのだろう。

「・・・どうした」

 悟浄の件に関しては一応気が済んだらしい三蔵も、3人の様子に不信げに声を掛ける。

「三蔵、それが・・・」
「あ、もーちょっとで取れそう♪」

 いつの間に作業を始めたのか、八戒が三蔵に事の経緯を説明する前に、悟空の手は絡まる根を掻き分けて謎の物体に届こうとしていた。

「ってむやみやたらと手ぇ出してんじゃねぇっ!」



 バッシ――ン



「っ痛ぇ〜っ!!」

 まるでリスの巣穴から木の実を取り出そうとしているサルの如く奇妙な物体に取り付く悟空の頭上に、小気味良い音を立ててハリセンが炸裂する。
 と、

「「「あ」」」

 悟空がハリセンを喰らった際、最後の力が加わったのか、
 根の中央に嵌っていた『それ』は支えを失い、重力に従って落下し始めた。

「玄奘殿、それは――!」

 その存在すら忘れていた羅昂の声と同時に耳に飛び込んできた、ビッという小さな音。
 尖った根の先端に掠って破れる包み紙の音が、奇妙なまでに大きく聞こえた。
 そして――



 ドンッ



 一瞬スパークする視界と振動する空気。
 思わず目を瞑った悟空と八戒が、目を開いて最初に見たもの。

 ――え・・・?

 それは、ゆっくりと仰向けに倒れる三蔵の姿だった――







お久し振り過ぎてもう色々駄目駄目なんですが、何とかupに漕ぎ着けた桃源郷メインストーリー。
書き始めが随分昔なので、若干古臭さが漂う部分があるかも知れませんが、まあそれはそれということで;
背景画像を探し回った末、この話の内容に相応しい物を見付けたのですが、生憎黒背景用しかなく、試行錯誤した結果、テーブル内のみ白背景にしてフィルタを掛けました。見辛かったらごめんなさい。
何となく話的に、完全黒背景ではないんですよねぇ、という香月のこだわり(^_^;)。







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