Shinning sun and brilliant moon







 「おー、もーすぐ日が暮れらぁ」
「夕日が目に沁みますねぇ」
「・・・スパゲティ・・・チゲ鍋・・・トムヤムクン・・・」

 ・・・・・・・・・・・・

「だああああっ!八戒、いつになったら次の町に着くんだよ!!」
「腹へって死にそう〜」
「そう言われましても、町が無いのは僕の所為ではありませんし・・・」
「煩い、耳元で喚くな。死にたきゃ勝手に死んでろ」

 三蔵一行を乗せたジープは、今日もひたすら西に向かって疾走していた。
 見渡す限りだだっ広い荒野の中、目指す町らしきものは未だ見えない。
 遠く南北に連なる山脈の狭間に見えていた赤い夕日も、徐々に山の影へと入り込み、それと共に周囲の明るさも落ちていく。
 暗くなることで、せめて町の灯りが見つけやすくなればいいのだが――そう、ハンドルを握る八戒が考えていた矢先、

「止められよ!!」
「わぁっ!?」「いっ!?」「へっ?」「どわぁっ!」



 キキィ―――――ッッ



「「「―――――っっ!!」」・・・ンゲッ」

 時速60km――運転手は常に安全運転を心がけていると自負している――は出ていたであろう状態からの急ブレーキに、乗員の体は慣性の法則に忠実に従った。
 前方へと掛かる急激なG。
 手足に力を入れて踏ん張った運転手&2人の最高僧は取り敢えず無傷。
 悪くすればブレーキレバーなどに顔面を強打する可能性もあった悟空は、羅昂が襟首を掴んだのでこれも一応は無事――窒息しかけたが――である。
 とっさの判断をし損ね、更に誰の助けも得られなかった悟浄は見事に前へとつんのめり、運転席の背後部で顔面を強かに打ちつけた。

「・・・・・・悟浄、生きてますか・・・?」
「だあぁ〜っ!俺様の一番モテポイントな顔があぁ〜っ!」
「・・・打ち所が悪くあられたようだが・・・」
「ほー、これ以上悪くなる余地があったとは知らなかったな・・・」
「大丈夫ですよ。あまり代り映えしてませんから♪」
「・・・羅昂、ぐるじい゛・・・」
「ああ、済まない」

 ・・・・・・・・・・・・

「って羅昂!イキナリ何なんだよっ!?」

 そう。
 前後左右、見渡す限りこれといって特別な物の無い草原を走っている最中、突然羅昂が静止の声を上げたのだ。
 前方を鹿やウサギが横切ったわけでもないし、久々の刺客御一行様がお見えになったわけでもないようだ。

「まさか幽霊が横切った、なんて言うんじゃねぇだろーなっ!?」
「・・・それなりの理由でなけりゃ、即行で殺す」

 悟浄の罵声も三蔵の凄みも軽く受け流し、フン、と顔の下半分を隠す薄布の下で軽く鼻を鳴らす。

「出来るのならそうされよ――5秒後に同じ道を辿っても良いのならな・・・」
「それってどういう・・・」
「こういうことだ」

 八戒の言葉尻を捕らえ、羅昂はほっそりした指を顔の高さに上げ、パチンと鳴らした。
 その瞬間――



 ズズ――――――・・・ン



 4人が表情を強張らせる目の前で、今まさに通ろうとしていた場所が爆発を起こし、もうもうと土煙を上げる
 風で土煙が吹き飛ばされたことにより晴れてきた視界に映ったのは、直径100mはありそうな巨大なクレーター。
 今の爆発で生じたものであることは、言うまでもなかった。

「・・・マジ?」
「シャレなんねー・・・」
「地雷、ですか・・・なかなか洒落たことするようになってきたじゃないですか」
「――違うな」

 え?と八戒は助手席の三蔵に目をやる。

「三蔵、それって・・・」
「こいつは地雷じゃねぇ、『術』に依るもの――そうだな?」

 最後の言葉は、羅昂に向けられたもの。

「やはり判るか」
「お前の隣の馬鹿共と一緒にするな」
「「誰がバカだよっ?」」

 同時に叫ぶバカコンビ――この辺りこそが、三蔵をしてこの2人をバカ呼ばわりする要因たらしめるのだが――に、八戒は苦笑しながら軌道修正にかかる。

「はいはい、話が逸れるので今は黙ってて下さい。――つまり、羅昂の力によりこの場の仕掛けを発動させることが出来た――ということは、この仕掛けは霊力を使った『術』によるものである――そうですね?」
「そういうことだ・・・で、心当たりは?」

 これも、後半部分は羅昂に振られる。

「フン・・・霊力による現象を何でもかんでも私の所為にされては困る。大体、陰陽道(そっち)の筋の者で『羅昂三蔵(わたし)』が陰陽道の力を持つことを知る者は殆どいないんだぞ?」
「え、そうなのか?」

 悟空が黄金(きん)()を見開く。
 羅昂の出身である(ロウ)家は、桃源郷屈指の陰陽道の名家として名高い家系である。
 現在は計都を残してその名を持つ者はなく、故に計都が現当主の座にある。
 とはいえ、仮にも一族の生き残り、かつ当主の双生の片割れであるのなら、周囲の者も羅昂の存在くらいは――陰陽道と相対する仏道に身を置いているにしても――知っていても良さそうなものなのだが――

「朧の者達は私の・・・私達の存在をずっと隠蔽していた。一族を滅ぼす予言を受けた子供を朧家の籍に入れる事は、一族にとって許し難い事だったからだ。
 予言通り一族を滅ぼした後、『計都』は自身の戸籍を復活させた――12の時だ。
 そして・・・『羅昂(わたし)』はそのまま――朧の名を捨てた――」
「そう、だったんですか・・・」
「それに今更この状態を知られるのも、私としては都合が悪いしな――」

 陰陽道の名家である朧一族の血を引く者が、それとは相対する立場にある仏道に帰依している。
 羅昂が籍を置いていた成都の寺院では、その称号故に周囲も殊更騒ぎ立てることは――もちろん、陰口は日々絶えなかったが――なかったが、これが陰陽道に通ずる連中に知られては、只では済まされないだろう。

「取り敢えず、こんなところで止まってたって仕方ねぇだろ。八戒、とっとと出せ」

 出せと言われてはい判りました、と発進させることが出来る程、八戒は向こう見ずではない。
 今の爆発騒動の間に日が完全に沈んだため、ヘッドライトを点けながら、

「このクレーターの中を進むんですか?危険ですよ」

 大きさもさることながら、深さも相当あるクレーター。
 更に、羅昂が仕掛けを発動させたとはいえ、それが完全であるとは言い切れない筈。
 ましてや、周囲の様子も判らないこの薄闇の中での走行は、無謀以外の何物でもない。

「多少時間はかかるかもしれませんが、このクレーターに沿って周回した方が無難だと思いますけど・・・」
「・・・チッ・・・」

 不機嫌さに顔を顰めて舌打ちするものの、八戒の理路整然とした意見に穴などは無く、

「・・・勝手にしろ」

 何とも投げやりな言葉でOKサインを出す。

「で――このクレーター・・・どうしましょう?」

 クレーターを右手に眺める――とはいえ、日も落ちた現在は月明かりに依って相対的に浮かび上がる影しか見えないのだが――状態でジープを走らせながら、八戒は三蔵に尋ねる。
 原因が何であれ、この仕掛けは自分達を標的に作られたものである可能性が高い。
 直径100mもの大穴をほったらかしにして、後々この場所を通る人達に支障をきたしたりしないだろうか?
 八戒の危惧――という程本人の口調に切羽詰まった響きはないが――も、三蔵の一言であっさりと跳ね除けられてしまう。

「俺に聞くな」

 突然地面に開いた大穴を『どうしましょう?』と言われても、言われた方は何と答えればいいのか。
 けんもほろろに突っぱねる三蔵を、咎めることは出来ないだろう。
 運転席と助手席に座する2人の会話(?)を他所に、後部座席では悟空が悟浄越しに身を乗り出してはしゃぐ。

「でっけぇよなーっ、ここに水張ったら泳げるぜ♪」
「平原のド真ん中で泳いでどーするよ・・・」

 ツッコミを入れながらハイライトの煙を吐くと、悟浄は誰に問うでもなく呟いた。

「でもよ、ンなご大層な仕掛けする割にはツメが甘いんじゃねーの?
 こーゆー場合、仕掛けた場所の近くで成功するかどうか張ってると思うんだけどよ?」
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

 返ってきたのは、4人4様の奇妙な表情――というより奇妙なものを見るような視線。
 尤も、羅昂は気配を投げ掛けるだけなのだが。

「・・・何・・・」

 その気味悪さに思わず聞けば、

「・・・幻聴、でしょうか・・・悟浄がマトモなことを喋ったように聞こえたんですが・・・」
「・・・私達も聞いているのだから、幻聴でもあるまい・・・」
「・・・よっぽど、打ち所が良かったようだな・・・」
「激、気色悪ぃ・・・」
「あのね・・・」

 お宅ら、揃いも揃って人の事何だと思ってんのさ?と言いたかったが、辛辣な返事(×4)が返されるのが容易に想像出来るため、その言葉をグッと飲み込んだ。

 ・・・俺、この旅に出てからすんげぇ忍耐強くなったかもしんねー(涙)。

「まぁ、悪くなったのならともかく、良くなったんですから別に心配する必要もないでしょう。
 確かに、周辺にこの仕掛けを作った方がいらっしゃってもいい筈なんですが――」

 さりげなく(?)酷い事を言いながらジープの速度を落とし、周囲に注意を向けるが、それらしき者の気配は感じられない。

「――おかしいですよね、この辺には町もありませんし・・・」

 朝、八戒は出発前に、自分達の通る地域の地図を頭に叩き込んでいる。
 それによれば確か、この平原はもうしばらく続き、宿の取れそうな町に着くには早くても明日の日暮れ頃まではかかる筈なのだ。
 ――尤も、昨今の異変によって、地図の信頼度はかなり低くなっているのだが――

「無いものはねぇんだ、いつまでもキョロキョロしたって・・・」
「あーっ!!」
「わっ!?」



 キキィ―――――ッ



 三蔵の言葉にかぶさるように、悟空が大声を張り上げる。
 殆ど条件反射でブレーキを踏む八戒。

「「「!?っ」」」

 最初の時よりスピードが緩かったためさしたる被害はなかったが、突然の大声による心的ダメージはやはり大きい。

「「っっ――ってこのバカ猿!何イキナリ大声出しやがる!!」」

 こういう時は、三蔵も悟浄も非常に良く似た反応を示す。
 以前、羅昂がそれを指摘すると2人して物凄く嫌そうな顔をしたのが気配で知れたので、以来口には出さないが。
 そもそもこの成人組3人は、どの組み合わせを取ってもそれぞれ何某か似た部分があると、羅昂は一行に加わって左程も経たずに感じ取っていた。
 が、それは自身にも当て嵌まるので、わざわざ口に出すことでもないと羅昂は考えている。
 ――閑話休題。

「悟空、此処には我々しかおらぬ。そのように大きな声を出す必要性はない」
「だってホラ、あそこ!」

 2人同時の罵倒にも羅昂の苦言にもめげず、前方やや左を指す悟空。

「あそこって言われてもねぇ・・・」

 ヘッドライドで照らされる視界は限りがあって、
 標準仕様の眼しか持たない悟浄には、悟空の指差す先にあるものなど見える筈もない。
 平均より視力の低い三蔵、八戒も然り、ましてや目の見えない羅昂に至っては問題外であった。

「何かあるんですか?」
「町みたいなのが見える!」
「え?」







2/29はオリキャラ計都(つまり羅昂も)の誕生日なので、何とかこの日のアップ目指して執筆しておりましたが、ちょっと間に合いそうにないので序盤のみ先に上げさせていただきます(陳謝)。
今回は背景画像にも力を入れておりまして、陰陽師の扱う羅針盤のフリー画像を加工したものです。
といっても加工自体かなり以前の話なので、今同じ作業をしろと言われても多分無理(^_^;)。







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