悟浄は学ラン・八戒はブレザーが似合うと思う(関係ないし)





91.サイレン

 ※注:これはお題No.55「砂礫王国」の続編設定です。



 文化祭が終わると、周囲は一気に受験モードに突入する。
 中間・期末に加えて実力テストとやらが行われ、頭の悪い人間(つーか、俺)は青息吐息だ。
 テストとテストの間の期間はほっとするものの、そこだって毎日のように『テスト』『受験』の文字が飛び交い、憂鬱さに拍車を掛ける。
 特に今日は金曜日だ。一週間分の疲れが溜まっているので、身も心も怠さはハンパじゃねぇ。
 今日は『仕事』も入ってないし、ゲーセンでも行ってストレス発散すっか、とサイダーを飲みながら考えていた俺の傍に、人影が近付いた。

「憂鬱そうですね」

 や、実際憂鬱なんだよ。全ての科目で80点以上取ってるお前さんの方が異常だって。

「今日は、『仕事』は?」
「入ってねぇ。大体、中坊がやたら社会人と接触してたら怪しまれるだろ。『会社』だってその辺は心得てるさ。
 ま、それでも親がいねぇ分、他の連中よか使われているとは思うけど?」
「・・・そうなんですか」

 『仕事』ってのは、もちろん品行方正なアルバイトじゃねぇ――あ、俺等まだ中坊だから、それもアウトか。
 不正入手したあらゆる情報を、裏で取引する。
 目の前にいる親友は情報を入手する側、そんで俺は取引する側。
 小金を欲しがる中高生に声を掛けて、そんな違法行為をさせているのだ。
 子飼いになっている奴の殆どは、親と反りが合わなかったり、家に自分の居場所が無かったりして夜の街に入り浸っている連中だ。
 その中でも、実際に両親がいない俺は、特に使い勝手がいい駒だろう。
 ――兄貴は昼夜バイト漬けで、家にいることは殆どねぇしな。
 不意に胸をよぎった痛みは気のせいという事にして、俺は親友の目を見た。

「――で、何かあるんだろ?」

 あるのか、ではなくあるんだろ、と聞いたのは、確信があったからだ。
 養父である『社長』に悟られないよう、自分から俺に接触してくることを控えているこいつが、世間話をするためだけに俺に話し掛ける筈はねぇ。
 何より、今こいつの周りを取り巻く空気は、明らかに緊張感を漂わせている。

「・・・鋭いですね」
「まあな。で、何?」

 持っていたペットボトルで隣の机を指すと、案の定というか、お行儀良く椅子に腰を掛け、奴さんは口を開いた。

「悟浄・・・1つだけ、お願いがあるんですが」
「おー、1つと言わず、いくつでもOKよ?」
「あはははは、1つで充分ですよ。いや、2つかな・・・?
 実は――姉を、悟浄の家の養子にして欲しいんです」
「あ?」

 こいつに姉がいる事は、知り合って――と言っても、『社長』が意図的に俺をこいつの『監視役』として付けるために、俺の学校へ転校させたんだが――左程経たないうちに、こいつから聞いた。
 こいつが『社長』を裏切らないよう、人質的な形で『社長』の弟の養女にさせられているのだ。
 いつかその姉貴を取り戻したい、そのチャンスを窺うため、今は大人しく『社長』に従っているという事は、こいつと俺だけの秘密だ。

「悟浄のご両親がお亡くなりになっていることは、すみませんが調べさせていただきました。
 ですから、それより前に養子縁組をしていたことにして欲しいんです」
「・・・お前・・・?」

 中学生の口から出る台詞でないことは俺でも解る。
 だが、プログラミングとハッキングの技能は大人顔負けなこいつなら、それも不可能ではない。
 ということは、まさか、『チャンス』が来たということなのだろうか?

「そして・・・組織から、足を洗って下さい。
 貴方なら、まだ組織を抜けることは簡単な筈ですから――」

 ハッとした。
 確かに、俺がこのままズルズル『会社』の駒であることを続けてりゃ、いつかは本当に後戻り出来なくなる。
 あの会社にある俺のデータを全て消去・破棄しちまうことで、俺はあの『会社』と縁が切れるわけだ。
 こいつは、姉貴を取り戻す事だけじゃなく、俺の事も心配してくれている。
 これを受け止めなきゃ、俺は男じゃねぇ。

「・・・戸籍でも何でも、お前のいいようにしな。
 それでお前とお前の姉貴が助かるんなら、幾らだって書き換えていいさ」
「有難うございます・・・!」

 満面の笑顔に、不覚にもペットボトルを取り落としそうになる。
 こいつの笑顔って、ある意味凶器だよな。






 そして4つの授業と昼休みを挟んだ午後――

「あれ、猪は?」
「今日、来てたよな?早退?」

 技術工作室に集まったクラスメートが、辺りを見回す。
 言われて初めて、俺も奴さんが来ていない事に気付いた(この授業、来たら順次作業開始だし)。
 既に始業のチャイムはなっている。
 ちょっと待て。
 あいつ、転校以来無遅刻無欠席無早退なんだぜ?
 胸の辺りがザワザワして、頭のどこかでもう一人の自分が、煩く喚いている。
 こういうのを、『虫の報せ』っていうんだろうか、
 ゲーセンに入る前に補導員がいるのを嗅ぎ取るような、ヤバいことが起こりそうな予感だ。

「おい、悟浄、顔色悪くないか?」
「あ・・・あぁ・・・ちょっと、気分悪い、かも」
「おい、ヤバいんじゃねぇ?椅子座るか?」
「センセー。沙が具合悪いみたいですー」
「風邪か?病院行くか?」
「や、家に薬あるから、それ飲みます」

 こうして俺は、天下御免で早退した。
 あいつの事で血の気が引いたのは事実だから、誰が見ても今の俺の顔色は良くねぇ。
 だが、真っ直ぐ家に帰るつもりも、もちろんない。
 家に向かう途中にあるバス停から、駅へ向かうバスに乗った。
 俺達『会社』の子飼い達は、殆どは地元で声を掛けられ、その場で仕事の内容を教えられるので、『会社』の所在地は教えられない。
 だが俺は、『社長』に直々に呼び出され、あいつの監視役を言い渡された経緯から、その場所を知っている。
 俺の勘が正しいのかは判らない。
 だが、警報器(サイレン)を聞かされているような焦燥感が、ひたすら俺を追い立てていた――







あとがき

お題No.55の続き。
話はまた悟浄主体に戻りました。
ここから先は、本編とリンクする形になります。というより、本編で悟浄が三蔵に言った内容を独立させてストーリーにしたのがこの一連のシリーズといえるでしょう。
更に本編の暗転した部分からお題No.54へ繋がります。
本当はこの『Xデー』は夏にする予定だったのですが、悟浄と八戒の年齢をうっかり15歳と本編で書いてしまったため、秋の終わりということにしました。年齢を書く際は季節を考慮しなければならない事を痛感した香月です。



読んだらぽちっと↑
貴女のクリックが創作の励みになります。




Back