Shininng sun and brilliant moon 〜天界編〜





 それから数刻――
 観世音邸に臨時的に設置された『天界西方軍第一小隊控室』に、に伴われた男達がぞろぞろと入って来た。
 観音は、今後の上層部の動向如何で対応に迫られる可能性があるため、自室に戻っている。
 隊員達の言葉で、月香とは天帝城内で起こった出来事の詳細が掴めてきた。

「――では、闘神太子が自刃したのを眼にして、感情を爆発させた悟空の金鈷が砕け散ったと・・・」
「はい。我々はその際、竜王閣下の命であの幼児に近付かないようにしていたのですが、その場にいた兵の大半は、その圧倒的な力に為す術もなく・・・」
「その後、観世音菩薩様があの幼児の動きを止めたのですが、『始末する』と仰ったあの方の手を金蝉童子が止められ、元帥・大将と共にあの幼児を擁護し、全員まとめて謀反人とされてしまったのです・・・」
「今、我々の隊の者数名が、元帥達が立て籠もっている西南棟の周囲に残り、元帥達と李塔天軍双方の動向を探ろうとしております」
「そうですか・・・」
「恐らく、竜王閣下を人質に取ったのは、閣下が元帥の取られる行動とは無関係である事を周囲に示す為の行動ではないかと思われるのです。
 ですから、閣下をお救いすると見せかけ、騒ぎに乗じて元帥達の望みが達成出来るよう、ご助力したく存じます」

 最後の兵士の言葉に、その場にいた兵士全員が頷く。
 彼等は、ともすれば変わり者扱いされ、周囲から孤立しがちな元帥と大将の、数少ない理解者なのだ。

「貴女はどうします、?」
「――私の役目は、月香様、貴女様をお守りする事。
 もし元帥達のなさる事が月香様の御意向に反するのであれば、私は一切関与致しません。
 ですが、月香様があの方達への助力をお命じになるのであれば、無論それに従います」

 淡々と述べるその言葉とは裏腹に、瞳には苦しげな光が宿っている。
 かつて彼女と共に軍務に就いていた周囲の男達は、その心の内を知っているのだろう、複雑そうな顔で月香とを見比べる。
 そっと、月香は眼を伏せた。
 思うままに振舞えないのは、自分だけじゃない。
 任務を全うせんがために、敬愛する人を見捨てることすら躊躇しないだろう彼女の不器用なまでの実直さは、見ている方が辛くなる。

「では、貴女に命じます。
 ここにいる方々と共に、金蝉童子ら4名を、その本懐が遂げられるよう助力すること。
 良いですね?」

 の、雲一つ無い空のような蒼い()が見開かれる。
 一瞬遅れて、頬を紅潮させながら畏まって応えた。

「承知致しました!」

 男達の中の誰かが、ヒュウと口笛を吹いた。

「そうと決まれば作戦会議だ」








 元帥達の篭城から一夜――
 と西方軍第一小隊のメンバーは、順番に仮眠をとりながら、今後の動きについて作戦を練っていった。
 西南棟及び軍(自分達以外の、だ)の動向確認も交代で行い、仮眠から覚めたも、数名の交代人員と共にそちらへと向かった。
 西南棟が視界に入った時、数発の爆音が聞こえ、俄に周囲の空気が緊迫する。
 殺気立ち始める人々の間を縫って、交代相手の男の下へと駆け寄った。

「洋閏殿、今の音は!?」
「ああ、李塔天が陽動のために放ったんだ。まあ元帥達もそのくらい察しておられるだろうがな」

 と、それまで固唾を呑んで機を窺っていた兵士達の間から、どよめきのような声が上がった。

「呼ばれてとび出て、ジャジャジャジャ――――ン♪ てな」
「・・・歳がバレますよ捲簾」

 元帥の隣に立つ人物は、の知らない男だった。

「洋閏殿・・・元帥の隣に立つ方は・・・?」
「あぁ、君が隊を出たのは、あの人が来るより前だったからな。
 あれが第一小隊(ウチ)の大将で、捲簾って名だ」
「男前ですね。私がいた時の隊長とはえらい違い」
「だろ?元帥といいコンビでさ、俺達とは上からって感じじゃなく、家族みたいに接してくれる。俺達全員、頼れる兄貴分って慕ってたんだ。
 あの2人の行くとこならどんな所だって付いて行く、俺だけじゃなく皆そう思ってたんだが――」

 今回はそうもいかない、それを知らしめたのは、皮肉にもその当人の口から出た言葉だった。








「『下界への亡命』――それが我々の要求です」








 眼鏡の奥の瞳が、こちらを見た気がした。
 常にたたえている笑みが一瞬消えたのは、自分の気のせいだろうか。
 ――あれから更に半日以上が経過した。
 観世音邸の広間の壁には、大きな紙に書かれた天帝城及び周辺施設の間取り図が貼られ、それを元に綿密な計画が練られていた。

「俺達に出来る事は、元帥達が異空ゲートまで無事辿り着けるように加勢する事――もちろん、他の兵士達に気付かれてもいけない。
 元帥達がいつ西南棟を抜け出し、どのルートを通られるか、それを予想し、効果的な動きをしなくてはならない。いいな」
了解(ラジャー)!」
「李塔天側の状況は?」
「現時点では動きは全くなく、兵士そのものの数も昼間より随分少ない。
 きっと小隊単位程度で順番に休息を摂り、突入に備えているんだろう」
「――ってことは、突入はそう早い段階じゃない――夜明け頃か」
「まあ、それが定石だよな」
「じゃあ、元帥達は夜陰に乗じてあの棟を抜け出すんだろうか?」
「いや、元帥達はそれが出来ても、一緒にいる金蝉童子にそんな芸当は難しいだろう。
 だとしたら、李塔天軍が突入する時、騒ぎに乗じて行動する方が、まだ簡単な筈だ」
「成る程」

 天蓬の下で日々之戦闘の毎日を過ごしただけあって、第二小隊の面子は耳に入ってくる情報から、少しずつ状況の流れを予測していく。

「李塔天は西南棟の正面玄関前で全体の指揮に当たっている。突入はこの玄関からが主だろうが、その他全ての裏口・勝手口にも、少数の兵を見張りに置いているという事は、正面からの突入を合図に、その他の出入り口からも突入し、全方向から囲むつもりなんだろうな」
「元帥達が異空ゲートを目指す事は、李塔天側だって知っているし、特に本館との連絡通路は、そこそこの人数の兵が配置されている筈だ」
「じゃあ元帥達は、どうやって本館へ向かうんだ?」
「忘れたのかよ、お前。あの棟の地下と、天帝城地下書庫を繋ぐ通路があっただろう?」
「あー・・・そーいや元帥、よくあそこから書物を拝借して、『司書官に見つからないように返して来て下さい♪』って言ってたっけか」
「元々あの通路は有事の際に天帝が避難する為のものらしいが、それが必要になる事なんてこれまでになかったからな、今となってはこの通路の存在を知っているのはほんの一握りだ」
「ということは、元帥達はその地下通路を使って、本館地下書庫へ・・・となると、そこからまず北棟1階に上がって本館北側に入り、そして――」

 トン、と図面の一ヶ所を指し示す。

「エレベーターで、地下へ」
「多分、李塔天は軍隊を突入組とエレベーターの手前、それとゲートのある地下最下層に集中して配置するだろうな」
「そうね・・・私達がエレベーターを使おうとすると、目立って拙いわ。
 元帥は竜王閣下や私達を巻き込まないよう、細心の注意を払っているのよ、その計らいを台無しにしたら、私達全員元帥に申し訳が立たないわ」

 の言葉に、その場にいた全員が頷いた。
 その後も図面の上に頭を突き合わせて援護ポイントについて議論する中、ふとの隣にいた青年がに話し掛けた。

「そりゃそうと――なあ、あんたは・・・その・・・」
「何、蘇芳(すおう)?」

 かつて軍の士官学校でと同期だった青年は、言いにくそうにもごもごと呟く。

「その・・・さ、元帥が亡命するって事は、つまり二度と会えなくなるって事だろ?
 あんたは、それでいいのか?」
「二度と会えないのはあんた達も一緒じゃない。てゆーか、あんた達の方がこれから大変なんじゃないの?」
「そういう問題じゃなくてだな・・・!あんた、元帥の事・・・」
「・・・私はもう、あの方の部下じゃない。月香様の護衛役よ。今は月香様のご命令で、あんた達に協力しているに過ぎないわ。
 今回の事がなかったら、私が元帥にお会いする可能性なんて、ほぼゼロに近いんじゃないかしら。
 そう考えれば、元帥が天界(ここ)におられようと下界に行かれようと、左程変わりはないわ。
 それに――元帥を殺しかけた私には、元帥に合わせる顔がない――・・・」
「・・・あれは、・・・」
「はいストップ。これ以上無駄話するつもりはないわ。ルートがほぼ確定したところで、私達が他の兵に気付かれずに援護に廻る方法はまだ見つかってないんですからね」

 まだ何かを言おうとする表情の同僚を制したところへ、鈴の音のように玲瓏な声が掛けられた。

「――
「月香様、昨夜のうちに館にお戻りになったのでは・・・?」
「このような事態で、私だけ安穏としているわけには参りません。少しばかり、手仕事をしておりましたの。
 、こちらへ」
「はい」

 月香に誘われ、広間を後にする。
 薄暗がりの廊下で、月香はとんでもない事を告げた。

「あの方達の下へ、参ります――」







皆様方注意の程を。
ここから捏造話満載です(爆)。
えー・・・そもそもの始まりは単行本3巻での、西方軍第一小隊が援護に駆け付ける場面(あそこ一番好き♪)。
ですがちょっと待った。
そこら中李塔天軍の兵士がうろちょろしているのに、コイツらどーやってここまで来たのか(爆)。
この話はそれを明らかにするために書いたといっても過言ではないのです(え、月香は?は?)。
それにしても、原作で第一小隊14人中名前が明らかになっているのが2人しかいないもんですから、またオリキャラ造っちゃったですよ。流石に2人しか名前を出さずにこの内容進め難くて(-_-;)。







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