計都姫が清一色の手に落ちた事を知った王子達は、別邸内をくまなく調べました。 すると、地下倉庫の片隅で、計都姫に仕えている侍女達が、既に夜中であるにも拘らず白鳥の姿のまま、首輪と鎖で一繋ぎとなった状態で発見されたのです。 「首輪に魔法文字が刻まれていますね・・・これも清一色の仕業でしょう。 本来人の姿に戻る時間帯ですが、この首輪をしている間は解呪されないようです。 恐らくは、計都姫もご同様に・・・」 「クソが・・・」 首輪は繋ぎ目のない金属製で、つまり首輪に施された術を解呪しない限り、彼女達は永久に白鳥の姿で身動きもままならない状態で一生を終えなくてはなりません。 と、それまで怯えるように身を縮めていた白鳥のうち一羽が、長い首を持ち上げました。 「・・・クゥ、クー、クー・・・」 何事かを伝えるような鳴き声を上げながら、くちばしの先で地下倉庫の片隅を示します。 「このヒト、あっちに何かあるって言おうとしているんじゃない?」 悟空の言葉に、その白鳥は頷く仕草を見せました。 「こっちっつったって・・・あるのは熟成中の酒樽と岩壁くらいだぜ?」 「ちょっと退いて下さい、悟浄」 岩壁にロウソクの光を近付け、更にそこへ手を這わせるようにして調べていた八戒が、ふと立ち止まります。 「これは・・・魔法文字?」 岩壁に刻まれた特殊な文字。 先程、愚偶に仕込まれたものに似たその文字は、清一色が術を操る際に用いるもののようです。 「この壁に術を施しているのか?」 「文字を刻んだ石を押し込んだら壁がゴゴゴ・・・って横にずれるとか?」 「何それ、悟浄」 「冒険小説もいいですが、ちゃんと経済書や兵法書も読まないと、貴方次男坊なんですから苦労しますよ?」 「馬鹿は放っとけ。それより八戒、解除出来そうか?」 「うーん・・・こういうのは姉の方が得意なんですけどね」 「あぁ、花喃さん」 「誰?」 「僕の双子の姉なんですが、令嬢然としているのが嫌いでして、しかも魔法を操るのに長けているもんですから、町で白魔道士として主に邪気祓いや薬草・護符の販売などを生業にして過ごしています。 悟空はお城から出ないですから、会ったことはないですよね」 「や、今後も会わない方が身の為だぜ?」 「イエ、ナンデモ」 「清一色は黒魔道士の部類に入るので、姉なら奴の術に対抗するのもある程度可能だと思うのですが・・・まあ僕も多少はかじっているので・・・」 そう言いながら岩壁に刻まれた魔法文字に手をかざし、呪文を唱えると、 「うわ、壁が消えた!」 文字が刻まれていた岩壁の一面全てが、忽然と消えたのです。 その先に現れたのは、左へと向かって伸びる通路。 「城の外からここまで通路を造ったようですね・・・」 「ってことは、この先に・・・?」 悟空と悟浄が、首だけを出して通路の先を目で辿ります。 八戒が持つロウソクの光が照らす僅かな範囲以外は、真っ暗で殆ど何も見えないのですが。 「どうします、王子?」 「どうもこうもねぇ――行くぞ」 ピチャン――・・・ピチャン――・・・ 岩盤をくり抜かれてできた洞窟を、4人はそろそろと進んで行きます。 「通路の方向や、岩盤から水が滲み出しているところを見ると、どうやら僕達は湖の下を通過中のようですね」 「ったぁくよ、いつの間にこんなモン造りやがったのか」 「・・・・・・?」 「どうしたんだよ、三蔵?」 悟空の問いかけには応えず、やおら立ち止まった三蔵王子は、自分達が歩いてきた後方の通路へロウソクの光を向けます。 が、ゴツゴツした岩壁以外、眼に入るものはありません。 「どうかしましたか?」 「・・・いや、気のせいだ」 「なぁに三蔵様、もう耄碌?」 ちゃき 「いやいやいや、ここ逃げる場所ないから無理!」 「王子、銃弾は貴重品なので乱用はお控え下さいと言ってますでしょう」 「だから俺の心配は!?」 敵の造った通路を通っているとは思えないほどの賑やかさで進む4人の背後、 ロウソクの光の届かない岩壁の影に、気配を殺して身を潜める人物の存在に、気付く者はおりませんでした―― 通路を渡りきった先は別の建物の地下部らしく、螺旋状に組まれた石の階段が、地上階へと通じる唯一の道のようでした。 コツ、コツ、と硬質な音を立てて階段を上りながら、悟空がぽつりと呟きます。 「・・・何か、嫌な感じがする」 「この階段が、罠だってのか?」 「違くて・・・階段の上の方に、嫌な気配がするんだ」 「悟空は、魔法は使えなくても第六感的なものは長けてますからね・・・きっとこの上に、清一色が手ぐすね引いて待ち構えているのでしょう・・・」 「だからといって、引き返すわけにはいかねぇ。進むぞ」 階段は、弧を描きながら上へ上へと続いており、どうやら円柱状の塔のような建物の内部を上っているようです。 しかし、既に地上部に出ているであろうにも拘らず窓一つ無いその建物は、自分達がどのくらいの高さに来ているのか、今が何刻なのか、そういった感覚が奪われ、疲労感が募るばかりです。 4人の中で最も体力のある悟空の顔にも疲労が見え始めた頃、ようやっと階段が終わり、目の前には重厚な樫の扉が一枚。 「・・・ここがゴールってか」 「この中、すっげぇヤな感じ・・・」 「魔力が左程ない僕ですら、強大な力を感じます・・・清一色がいるのは間違いありませんね。 王子、気を付けて・・・」 「・・・行くぞ」 意を決し、扉を開けます。 中は間仕切りの無い円形の部屋で、ここも先程の階段と同様窓は無く、高い天井から下げられたシャンデリアと壁の数ヶ所に付けられた燭台の光だけが唯一の光源のようです。 周囲には天井付近からタペストリーが下げられているものの、壁も床も、塔を構成するものと同じ石でできています。 その部屋の中央に立つのは―― 「ククククク・・・ようこそ、我の隠れ家へ」 目を糸のように細め、ニタリとおぞましげな笑みを浮かべる清一色。 そしてその背後には―― 「計都姫――!」 何かの薬を盛られたのか、術を掛けられたのか、三蔵王子達が叫んでもピクリともせず、死んだように横たわる計都姫が―― 「――2人!?」 |
段々何のパロディかも判らなくなってきました(笑)。王子と悪魔が剣で斬り合って・・・って三蔵様にしても清一色にしてもあまり似合いませんから。 終始悟浄が活躍出来ていませんが、やはり今後も活躍しません(言い切った・・・!)。 それが当館のスタンダード(笑)。 |
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