Shinning sun and brilliant moon





 一方その頃、陽家の屋敷の前方では、

「オラオラオラ、どいたどいたーっ!!」
「何だか性質(タチ)の悪い暴走族っぽいですねぇ、僕達♪」
「・・・・・・(←ツッコんだら負けだと自分に言い聞かせている)」

 大通りをアクセル全開で爆走するジープ。
 その前方には、

「ひゃーっ、凄ぇ!早ぇ!かっけー!」


 これまた全力疾走する白輝・・・と、その背に跨る悟空。
 町の住人は異様な光景にある者は足を止め、ある者は住居の窓や門を開けて顔を覗かせるも、関わっては拙いと判断し、遠巻きに見守るばかりだ。
 一方、白輝やジープの進行方向真正面である正門の警護を担う者達も、その勢いに気圧され、右往左往してしまっている。
 つまりはこうだ。
 『妖狐を退治しようとした仲間(=悟空)を乗せたまま妖狐が遁走したため、それを後ろから追いかけているうちに屋敷の前まで来てしまった』態を装うという作戦。
 実際、屋敷の警護ふぜいが束になったところで高位の妖狐である白輝をどうこう出来る筈もないのは明らかで、
 気概があるのか怖気付いて動けないのかはともかく、大半の者が逃げ惑う中、正門の前にはもう僅かな人数しか残っていない。
 この分なら、正面突破は容易いだろう。
 あとは、羅昂の詳細な居場所さえ判れば手間が省けるというものだが――
 ――と、
 突如、進行方向に光が出現したかと思うと、それは瞬く間に円盤状にその範囲を広げ、屋敷の門を隠す大きさまでになった。
 ――すなわち、白輝とジープが通れる大きさだ。


「え、じゃあ・・・」





(白輝!!)





「ちょ、待っ・・・!」

 慌てて悟空が体勢を低くし、白輝の背にしがみ付く。
 白輝の後足が地面を蹴り、光の円に飛び込んだ。
 続くジープを運転する八戒も、アクセルを全開にする。

「あの光の向こうに羅昂がいるようですね・・・行きます、よ!」








「な・・・これは・・・・・・!?」

 羅昂の身体から幾筋もの光の帯がほとばしり、一ヶ所に収束していく。
 封呪の枷を施しているにも拘らず繰り出される見たこともない術に、陽父子は我が目を疑わんばかりに見開いた。
 無理もない。その力が人智を遥かに超える、天地創造に用いられた『力』だとは、彼等には知る由もないのだから。
 珀乾が座す位置と羅昂・珀辰の立つ位置の中間点に集まった光は見る間にその面積を広げ、横向きの大きな円盤を形作っていく。
 ――そして、

「「なっ―――!!」」

 光の円盤から突如飛び出した巨大な三尾の白狐と鉄の乗り物に、陽父子は驚愕の声と共に反射的に後ずさる。
 先程異変を告げに来た下男に至っては、半ば腰を抜かし、文字通り這う這うの体で広間から逃げ出す始末だ。
 声を挙げたのは、陽父子だけではなかった。

「え、ここって・・・?」
「あ、室内・・・」
「げっ・・・」
「馬鹿止まれ!」

 白輝に跨る悟空、続いてフルスピードで走っていたジープの上の3人が、現状を把握すると同時に蒼褪める。
 光の扉から正面の壁まで、どう見ても10mもない。
 それがどんどん接近するのが、彼らの目にはスローモーションのように映った。

「ジープ、戻れ!」
「ピィ!」

 唯一状況を把握している羅昂の言葉に、賢い翼竜は一声鳴くと本来の姿へと戻る。
 が、ジープに乗っていた3人は、慣性の法則のままに前方――羅昂から見て左手方向――へとつんのめる。
 あわや板壁に激突、という直前、

「ふぎゃっ!」



 ぼふっ



 先に着地した白輝が咄嗟に尾を体に沿わせ、尾と体全体で3人を受け止めた。
 彼女の機転がなければ、肋骨の1・2本くらいにはひびが入ったかも知れない。

「あー、3人共ずりぃっ!俺も尻尾のクッションに乗っかりてぇ!」
「あはは、まあクッションとしては贅沢な部類に違いありませんがね」
「あのー、その前に俺、床でワンバンしてるんだけど?」
「後部座席だったからな。諦めろ」
「お、お前達っ、町から出たんじゃ・・・!」

 緊張感に欠ける遣り取りを交わす4人に、狼狽から立ち直りきっていない珀辰が、震える声で問い質す。

「ぁあ゛?」

 眼光鋭く睨め付ける三蔵に、ヒッと喉を引きつらせる珀辰。その様子は、三蔵達が町に入った時のそれとは雲泥の差である。
 無理もない。先程と違い、衛兵が1人もいない今、形勢は陽父子にとって不利な状況なのだから。

「取られたモンを取り返しに来ることの何処が悪い」
「大丈夫か、羅昂?」
「心配は無用だ」
「怪我はないようですけど、その枷は・・・」
「え、何、そういうプレイがお好み?」
「・・・白輝」



 かぷ



「嘘です冗談ですゴメンナサイ痛い痛い痛い」
「悟浄・・・」
「封呪の(まじない)が施された枷だ。物理的に破壊するのは困難だろう」

 羅昂の言葉通り、継ぎ目の存在しない金属製の枷は、恐らくこれを施した術者が解かない限り外すことの出来ない代物だろう。
 掛けられている場所が首と手首――動脈の真上――であるが故に、無理に壊そうとすると羅昂の命に係わりかねない。

「もう私に用はあるまい。此度の件は穏便に済ませる故、速やかにこの枷を外されよ」

 珀辰に向かってきっぱりと告げる。

「結局用件って何だったんですか?」
「私ではなく計都に対する用向きだったようだ」
「計都に?何で?」
「フン、お笑いだ。この者の下に嫁げとな。
 珀辰殿とやら、同じく朧の血を持つ私がこの際言って差し上げよう。
 計都が魂を結び付ける相手は、少なくともそなたなどではない」

 それは、予言と言うよりもむしろ断言――

「!・・・・・・」
「解ったらこの戒めを・・・」
「お、お待ち下さい!」

 懇願するように珀乾が叫ぶ。

「まだ何か?」
「計都殿の御尊兄とあれば、その力も相当のものである筈。なれば、私の姪と――!」
「私は、そのような話には興味がない。他を当たられよ」
「今すぐとは申しません。あれはまだ12歳ゆえ、婚約の儀だけでも先に執り行って、髪上げ(成人)したあかつきに――」
「!!――っ」

 その瞬間、羅昂の中で何かがプツンと切れた気がした。

「・・・羅昂?」

 ふっつりと押し黙った羅昂に、悟空が恐る恐る声を掛けた時、



 ざわり



 風もないのに羅昂の銀糸の髪がたなびいたかと思うと、






 バンッッ






「なっ・・・・・・馬鹿なっ!!?」







判り易い展開かも知れませんが、長さの都合上ここで改頁。
この辺りが一番難産だったかも。脳内に映像は浮かぶんですが、それを文章にするのが非常に難しい。
そしてここまで悟浄が余りにもまとも(笑)だったので、ちょっとばかりイジって・・・と思ったらもう少しで首の骨を折るところだったですよヲイ(滝汗)。ちなみに白輝の『かぷ』は三蔵のハリセンとほぼ同義です(^_^;)。







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