Shinning sun and brilliant moon





 此処か――

 白輝の背に乗って平野を南西方面に横切った羅昂は、とある祠の前で降り立った。
 これと組になる祠が、離れた場所に複数あるのだろう。
 それらは一つの町を取り囲むようにして等間隔に設置され、内部の空間を町ごと外界と遮断していた。
 そこまでなら通常の結界ということで羅昂とてよく用いる手段だが、この結界と町はある点に於いて明らかに特殊だった。
 結界の中の町は、今は存在していない(・・・・・・・・・)のだ――








 壁に走り寄る八戒の様子に、残りの3人も異常に気付き、瞬時に意識を戦闘モードに切り替える。
 当然だが平手で叩いても拳を叩き付けても、モルタルで固めているらしい壁はびくともしない。

「哈っ!!」

 最大出力の気功砲を放つが、壁にはヒビ一つ入らない。

「うりゃぁっ!!」「てやっ!!」

 悟空の如意棒も悟浄の錫杖も、全く効いた様子がなかった。

「・・・・・・」

 三蔵はその様子を目を眇めながら観察し、思案する。
 この調子だと、自分の銃も同じ結果だろう――だとすれば、弾の無駄だ。

「窓!窓から出られないかな?」

 悟空が窓に駆け寄り、金具を外すが――

「あ、あれ?開かない」

 金具は外れても、窓そのものが窓枠と一体化したかのように開かない。
 如意棒で突いてみるが、さっきの壁と同様びくともしなかった。

「それ以上やっても無駄だ」
「体力は温存しておいた方がいいでしょうね」
「う〜・・・夕メシまだなのに・・・」

 外の通りには食堂や酒場があった筈。
 脳裏に食べ物を思い浮かべながら窓の外を恨めし気に睨んで、はたと気付いた。

「なあ、窓の外・・・何もねぇんだけど?」
「あ?何もない?」

 意味を図りかねた悟浄が窓辺に近付き外を見やるが、悟空の言った通り、そこには一面の闇が広がるのみ。
 日没から2〜3時間程度しか経っていないし、現に自分達が宿に入る時点ではまだ通りは賑わっていた筈。
 それが一切見えないだけではなく、月明かりや星明り、この部屋の明かりの反射すら何処にも見えないのだ。

「これは・・・この部屋ごと亜空間に閉じ込められたと考えるべきでしょうね・・・」
「琥珀羹?」
「黙ってろサル」
「亜空間というのは、普段僕達が存在している世界とは時間や物理的法則の概念が異なる空間です。
 ――ほら、僕と悟空の意識が瓢箪の中に吸い込まれたことがあったでしょう?あの世界も一種の亜空間といえるでしょうね」
「あーナルホド」
「俺達が入ってきた扉が消されたということは、その時点でこの部屋は完全に通常の世界とは切り離されたんだろう・・・直接戦う必要もない、後はただ俺達が餓死するのを待つだけだから、楽なもんだ」
「ええぇー!?俺ヤダよ、餓死なんて一番ヤな死に方じゃん!」
「ブレねぇなお前は。
 それにしてもまあ、手の込んだことしてくれるぜ」
「それなんですけどね、これっていつもの刺客の仕業には思えないんですよ。悟浄の言う通り、手が込み過ぎているんです」
「確かにな」
「それに先程の町長にしても宿の主人にしても、妖怪の気配はしませんでした。この宿へ入るまでの町中もしかり、です」
「え、じゃあこれって・・・」
「結界に関しちゃ、約1名エキスパートがいるな」
「えぇ。羅昂――というより陰陽師、でしょうか。あとは法術使いという可能性もアリですね」
「それってどう違うんだ?」
「法術使いというのは僧侶の中でも法術に関する修行を積み、法力でもって術を操る者を指します。陰陽師は羅昂のように陰陽師を輩出する家系やその血筋に生まれ、霊力を用いて術を操ったり予見を行ったりします」
「ほへー(←半分も理解出来ていない)」
「何だってアイツあんなに詳しいんだよ?」
「学生時代は物理学と宗教学が専門だったそうだ」
「何でおたくが知って・・・あぁ、『悟能』の身辺調査か」
「あぁ。真逆の内容を専攻する辺り、性格が出てやがる」

「俺じゃねぇって!」
「・・・知らんな(眼を逸らしながら)」
「まあいいでしょう。
 何にせよ、あの町長か、もしくはその背後に存在する何者かが結界を張り、僕達を閉じ込めたのなら、そのための術具がある筈ですよね。三蔵、何か判りませんか?」
「・・・・・・」

 問われて、三蔵は部屋の中を見渡すが、これと言って引っかかるものはない。

「鏡やら水晶玉が代表的なモンだろうが、この部屋には見当たらねぇな」
「水晶玉・・・?そうだ、羅昂から預かってた・・・」

 悟空はそう言うと、ズボンのポケットから小さな水晶玉を取り出した。
 羅昂が別行動を取る際、悟空に渡した物だ。

「え・・・光って・・・――っ!?」

 受け取った時は仄かな燐光をまとっていた玉が、今は明るい室内でも判るくらいに光っている。
 その光が悟空達の目の前で更に強さを増し、スパークした。
 思わず目を瞑った4人が、光が収まるのを感じて恐る恐る目を開けると――



 そこに立っていたのは、自分達より若干年嵩と思しき妙齢の女性。
 だが、有り得ない程に整った相貌や、重力に反して宙に浮く羽衣をまとう等、自分達と同じ次元に生きる存在ではないのは明らかだった。
 羅昂から渡された水晶玉を介して現れたところを鑑みると、出てくる答えは――

「・・・式神か?」


 『我が主』が誰を指すかなど、考えるまでもない。

「なぜ本人が来ない」




「で、羅昂(ヤツ)はお前を通して何をしようとしている?」


「ってーことは、原因究明だけ手伝うから後は自分達で何とかしろってこと?」

「それで、この結界の根源というのは・・・」



「方形の札を三枚立体に・・・こういう感じですかね」





 常に携帯している手帳の1ページを切り離し、聞いた通りの立体を図示する八戒。
 一枚の方形、つまり正方形の隣り合った2辺にそれぞれ別の正方形が垂直に立った状態で、これを2つくっ付ければ立方体になる感じである。




「成る程な・・・部屋の四方上下それぞれの隅に、ここの角を合わせるようにしてこの札を組み込んだってわけか・・・」
「こういう事、ですね」





 直方体で部屋を表し、その8つの隅に札が組み込まれている様子を書き込む。

「つまり、この部屋の隅8ヶ所に貼られている札を無効化すりゃいいんだな?」

「2ヶ所?」
「成る程、直方体を構成する辺が無くなればいいわけですから、2ヶ所・・・つまり直方体の対角線上の2点でいいんですね」


 元塾講師の実力を遺憾なく発揮する八戒である。

「でもよ、札を無効化するっつったって、さっき俺達散々壁やら窓やら攻撃したけど、ビクともしなかったぜ?」

 どーすんのよ?とぼやく悟浄。



「念を込めた攻撃、となりますと・・・」
「俺の銃とお前の気功しかないな」


「「難易度高っ!」」
「・・・仕方ねぇな・・・」

 激ウゼェ、といつもの口癖を出しながら銃を構える。

「お前は上だ」

 目線を投げ掛けて、八戒に指示する。

「判りました――ジープ、危ないから離れてて下さいね。
 じゃあ三蔵、1、2の、3でいいですね?」
「あぁ」

 言うと、三蔵は安全装置を外し、八戒は手に気を集中させ、それぞれ狙いを定める。

「いきますよ――・・・1、2の、3!!」







以前は行書体も書式で指定するだけだったんですが、Safariが行書体を表示しないという事をごく最近知った(香月未だにガラケーなもので;)ため、苦肉の策で行書体部分を画像ファイルに起こすことにしたんです。が、この作品って行書体のセリフがバンバン出るものですから大変で大変で(^_^;)。このページが一番時間かかったかもorz







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