悠久の旋律





 思いも寄らない内容に、翡翠の瞳が大きく見開かれた。
 その奥に突如浮かび上がったのは、あの城で繰り広げられた修羅場――






 ゴロゴロと雷鳴を轟かせながら、真っ黒い雲が猛スピードで流れていく。
 時刻は日暮れ時だが、厚く空を覆う雨雲で、辺りは既に闇色に染まっていた。
 腹の底から際限なく湧き上がるマグマのような憎悪とは裏腹に、思考は氷のように冷え切り、
 静かな足取りで門番の妖怪の前に歩み寄ると、一言も発さずその頚動脈を切り裂いた。
 建物に入り、奥へ進むに従って数を増す妖怪を、身一つ、短刀一本で葬っていく。
 いつしか外は雷雨となっていた。
 刃が肉を切り、骨を断つ。
 その不快な音と、感触。
 飛び散る血と、むせるような臭い。
 1000の死に顔の、1つとて記憶に残ってなどいない。
 在るのは唯一つ――愛する人の、最期の笑顔。
 そして――頭の奥で響き続ける、耳鳴りのような雨音――








「八戒!ブレーキ!!」



「っ!?」
「チッ!」



 キキキ―――――――ッ



 悟浄の叫び声に、半ば反射的にブレーキを踏む。
 硬直した八戒の手元を見て、舌打ちながらハンドルに手を伸ばしたのは、三蔵(←無免許)。
 耳障りな音を立て、ジープの車体がドリフトする。
 先程の急ブレーキよりも更に強烈なGが横向きに掛かり、後部座席の2人は必死で前の座席のシートに掴まった。

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

 顔の高さまで舞い上がった砂埃が落ち着くまで、4人は目も口も閉じたままだった。
 最初に口を開いたのは、八戒であった。

「・・・・・・すみません・・・」

 ハアァ〜ッ、と後部座席で2つの口が同時に深く息を吐くのが聞こえた。
 三蔵に至っては、助手席に座ったままハンドルに突っ伏するという不安定な姿勢をとっている。

「大丈夫ですか、三ぞ・・・うゎ?」
「?」

 らしからぬ八戒の奇妙な声に、ようやく三蔵も詰めていた息を吐く。
 幾らでも湧いてくる罵倒の台詞を八戒に浴びせるべく顔を上げると、



 ブルン



「っ!?」

 自分の目の前にあるのは、運転手の顔ではなく何と馬の鼻面。
 1頭の白馬が、ジープの運転席側から顔を突っ込んでいるのだ。
 先程悟浄がブレーキを踏むよう叫んだのもこの白馬が林道に出て来たからで、更にブレーキだけでは距離が足りないと判断した三蔵がハンドルを切ったのだが、その馬がこの位置にいるということは、どうやら間一髪で衝突は避けられたらしい。

「逃げもせずにこうしているなんて、随分人に馴れているんですね」
「・・・いい根性してやがんな、貴様」

 別次元に思考を飛ばしていた事など忘れたかのような八戒の惚けぶりに、心身共に疲弊させられた三蔵のこめかみに青筋が浮かぶ。
 言いたい事は幾らでもあった筈なのに、馬のドアップと対面してしまった拍子に脳裏から消え失せてしまった自分に対しても腹が立つ。
 ケッと誰にともなく毒づきながらシートに深く座り直して煙草を咥える三蔵と対照的に、後部座席の2人は、余り見る機会のない白馬に興味津々である。

「すげーな。〇れん坊将軍に出てくるヤツみてぇっ」
「いつの話だよ;今再放送もやってねぇぞ?」
「それにしてもこの馬・・・鞍をつけているということは、誰かに飼われているってことですよね?」
「え、じゃあコイツ、どっかから逃げて来たの?」
「届けたらお礼1割とか?」
「んなワケねぇだろ」

 欲に目が眩む悟浄に、三蔵は冷たく言い放つ。
 と、

『キュウ!』
「(4人)・・・・・・キュウ?」

 何処からともなく聞こえてきた声に、全員が顔を見合わせる。
 確かこの鳴き声は――
 4人の頭脳が唯一つの答えに辿り着いた時、

「・・・え?」
「うわ!?」
「をわ!?」
「なっ!?」

 自分達を包む車体が、腰掛けていた座席が眩く光ったかと思うと、



 ドサドサドサドサッ



 次の瞬間には、全員地面に投げ出され、尻餅をついていた。

「っ()――――っ!!」
「何なんだよ、ジープ!!」
「キュウ〜;」
「おい八戒、お前こいつを甘やかし過ぎてんじゃねぇのか?」
「ジープ、一体どうしたんですか?」
「ピィ!」

 八戒に何かを知らせるかのように一声鳴くと、ジープは羽ばたきながら白馬に近付いた。
 すると、ジープの変身に呼応するように、今度は白馬の身体が眩く発光し、その輪郭を変えていく。
 4人+1匹の目前で、光は体積を縮め、そして――

「キュウ!」
「キュウ!」
「マジかよ?」
「ジープが2匹!?」
「んなわけねぇだろが」

 光が治まると、現れたのはジープとそっくりな、しかしジープよりは若干大きめの白い翼竜。
 ジープと向かい合ってホバリングする姿は、まるで兄弟のようだ。

「え、何、ジープの知り合い?」
「もしかすると生き別れのお兄さん・・・」
「真面目にんな事考えてんじゃねぇだろうな」
「ンなご都合主義の三流ドラマみてぇなお話がゴロゴロ転がっててたまるかよ;」

 目を(異なる意味合いで)輝かせる悟空・八戒と対照的に渋い顔でツッコむ三蔵・悟浄。

「八戒!ジープが!」

 同種族の者同士何らかの意思の疎通があったのだろうか、悟空の指差す先、仲良くホバリングしていた2匹の翼竜は軽い羽音を立てて林道から逸れ、林の奥へと入って行った。

「どうします?」
「どうもこうも、足に逃げられちゃ進めんだろうが。追うぞ」

 三蔵の言葉に、残る3人も慌てて林の中に足を踏み入れた。
 薄暗がりの中で眼を凝らせば、視界の端に、木漏れ日を反射する白い羽が見える。
 ジープか、あるいはもう1匹の翼竜のものと考え、後を追う。
 程なくして彼(?)等に追いついた場所には――

「――・・・・・・人・・・?」

 1本の大木の根元、太い根と根に囲まれ窪みとなった空間。
 頭からマントをかぶった人物が、うずくまるように横たわっていた――







やっと話の中心となるオリキャラ登場――といっても一言も喋ってませんが(爆)
暴れん坊〇軍に関しては、ローカル局では再放送されているかも知れませんが、一般的な話としてですので軽く流していただければ幸い。
ここのポイントはジープ君のお兄さん(仮)(笑)。何と馬に変身出来ます。







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